第五話
解されて張りつめて
「聞いてくれよ夏樹! 俺……遂に男になる時が来たかもしれねえぜ!!」
「はぁ?」
翌日、登校して早々、後ろの席の
「チッチッチ。USJでのことさ。お前と鏡が病院行った後、取り残された俺と涼川は……ふふふ。ふふっふっふはっはっは!! そういう感じのいい雰囲気になったのだッピ! どうだッピ!」
「はぁ」
今朝の母親と同じようなアンポンタンな口調で話す山目を見ていると、昨日まで悶々と悩んでいたのが馬鹿らしくなってくるな。
緊張が紛れて丁度いいが。
緊張。
何度経験してもそりゃするだろう。今から死ぬかもしれませんと宣告されて余裕でいられる奴なんざまともじゃない。
「あの日から……いい感じなんだぜ! 教室でも話す機会が増えたし、話しかける度に涼川ちゃん照れるんだぜー? ぜってぇ脈ありな気がするぜー?」
それは照れではなく困惑っていうんだぜー?
「てなわけで俺はもう青春真っ只中のバカンス気分だぜ!」
その二つは意味合いが大きく違う、というツッコミをするのも面倒で、俺は教室を見渡した。
本日、休んでいる生徒は居なさそうだった。
椅子の上に上履きのままサーフィンのように立つ山目に、
「浮かれるのはいいが、程々にしておけよ。ほら、あるだろ。駆け引きのバランスも肝心って。ガツガツいかないでたまには男の余裕も見せてやらないと」
「おお……確かにな。夏樹、お前、もしかして恋愛マスターか? 師匠って呼んでいいか?」
「やめてくれ」
彼女いない歴=年齢の方程式と恋愛マスターの称号を併せ持つ面白ポンコツ人間にはなりたくない。
「でもよ、男は度胸とも言うだろ? 押しが肝心とも言うしさ!」
「…………」
涼川の苦悩が思い遣られる。こりゃ確かに面倒でウザったい。
ニヤケ面の山目に、
「お前、今日から暫くの間、涼川と会話するの禁止な」
「え! なんでだよ!!」
「なんでも」
吐き捨てて俺は正面に向き直る。
「なんだよ、夏樹にそんな権利あるのかよー!」
後ろから肩を掴みぐらぐらと揺らしてくる山目。
思えばこの脳天気野郎にも、助けられたことがあったんだったな。
…………。
まあ、こいつには別に恩返しは必要ないか。(ひどい)
そうこうしている内に担任の岩塚が入ってきた。
日直の控えめな号令と共にHRが始まる。今日は涼川が日直か。
淡々と機械的に話す岩塚の連絡事項を聞きながら、俺は別の事を思考する。
今日、俺が五人目に話す女。
それが俺を殺そうとしている人間。
初めて深月と遭遇した日に起こした交通事故の際に走行中の俺の背後から声を掛けたのも、一酸化炭素中毒を起こした際に睡眠薬を珈琲に盛ったのも、そして今日、これから起こる何かを企んでいるのもソイツ、という事だ。
というか一日に五人の女の子と話すとか、なんかギャルゲーの主人公みたいだな。
本当に五人も話すのだろうか。
あれ? 待てよ?
本日の朝、自宅で朝食をとっている時に話した妹はこの場合カウントに含むのか?
幸先の悪さに早速混乱し始めた。
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