姉妹に見えんでもない
どうして深月が鏡の事を知っているかは訊くことができなかった。
何より神速で仲良くなっている二人は、喫茶店を出た後も並んでぺちゃくちゃしながら歩いており、俺などが割り入る隙間が無い。
俺はなんとなく深月に邪魔されたような気がしたが、今回は鏡への恩返しが目当てではあったので鏡が楽しいならそれはそれでいいということにしよう。
前を歩く二人から会話が聞こえてくる。
「夢鏡さんは部活は何をされているんですか?」
「私は剣道部よ」
「剣道ですか! やっぱり強さと美しさは比例するんですね!」
「なに言ってるのよ、深月ちゃんこそすごく可愛いわよ」
「いやぁ、えへへ、そんなことは……えへへ」
「あら、照れるのも可愛いわね。深月ちゃんは
「いいえ、
絶妙な会話のキャッチボールだな。
「ふーん、夏樹とはいつどこで知り合ったの?」
「はい、夏樹さんは私が生まれたときから良くしていただいてます」
「へー、そんなに昔からの知り合いなのね。知らなかったわ」
へー、そんなに昔から知り合ってたのね。知らなかったわ。
「はい、夏樹さんのおかげで今私はこうして幸せでいられます」
前から気になっていたけど、それはどういう意味なんだ?
深月のおかげで生きていられるのは俺であって、俺が生きることがどうして深月の幸せに繋がるんだ?
「ふ、ふーん……」
流石の鏡も、深月の歯が浮きそうな言葉で何か思うところがありそうな反応だった。
そんな会話が数分あった後、不意に走り出した深月が数メートル先で振り返って、
「それでは私はこのへんで失礼します! 夢鏡さん、パンケーキごちそうさまでした! 会えてうれしかったです、是非またお会いしましょう! それと夏樹さん! 早く私への命令をしてください! また近々伺いますので! では!」
そう言うと深月はタイムリープでも瞬間移動でもなく、ただただ普通に走り去っていった。
「夏樹、一体あの深月ちゃんって子とどんな関係なの?」
鏡が感情のわかりにくい顔で訊いてくる。
「詳しくは俺もよくわからないんだが、俺にとって命の恩人ではあるよ」
未来から来た人間、なんて話したら確実に俺が電波認定されるのでそこは伏せるしかあるまい。
「ふーん……よく分からないけど、夏樹はあの子が好きって事?」
「は? なんでそうなるんだよ!」
「そんな気がしたの」
「……そんなんじゃねえよ」
俺は、初めて助けられた日に病院で言われた深月の言葉を思い出した。
『私を好きになったらダメですからね!!』
どいつもこいつもすぐに恋愛感情とやらに絡めて考えやがって。
好きか嫌いで言えば、そりゃ何度も命を救ってくれる人間を嫌いになれるわけがない。
ただ俺には会えるだけで心が躍り、話すだけで心が浄化される、そんな
そういう感情こそ、恋愛感情じゃないのか?
「そ。まあいいわ、それにしてもいい子だったわねえ、深月ちゃん」
「ああ」
「小さくてかわいいし、やっぱり年下なのかしら」
「ああ」
「それに私の事を美人ですって。そんなに私綺麗かしら」
「ああ……」
例の如く一人深く考え込んで脳内談義を決め込んでいた俺は、鏡の質問もよく聞かずに生返事を連発してしまった。
「そ、そう……夏樹も、そう思うの?」
いつの間にか顔を赤らめ、毛先を弄りながら上目遣いに訊いてくる鏡を見てから、鏡の質問の正しい意味が脳内シナプスで繋がり、安易に生返事をしてしまったことに焦った俺は、
「いや、ちがう、そうは思わない、じゃなくて! え、と」
「…………どういう意味? 私はブスってこと?」
鏡の上目遣いが鋭い睨みに変わる。
「ちがうちがう! そうでもなくて、なんというか」
「何よそれ! どうせあんたにとっちゃ大したことない女ですよーだ! バカ!」
鏡は鬼の形相でそう吐き捨てると、殴る様に俺に何かを投げつけて走って行ってしまった。
そういえば死んだばあちゃんが言ってたな。人の話はちゃんと聞きなさいって。
ばあちゃんの教訓をヒシヒシと感じながら、鏡が投げて俺にヒットしアスファルトに落ちたものを拾う。
それは先日貰ったのと同じパイン味の飴だった。
食べられなかったパンケーキの代わりがこれか……?
割に合わないと思いつつも、それでも何かを寄越してくる優しさが鏡っぽい。
鏡がいい奴だ、と気付けただけでもこの修学旅行は有意義だったのかもしれないな。
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