プラス一キログラム


 まさかこんなことになろうとはだれが予想しただろうか。


 今俺はパンツ一丁である。

 カーテンの向こうにいる深月の指示で、パンツ以外は履いていない。

 靴下まで脱いだのだ。


「では、乗ってください」

「………………ああ」


 俺はごくりと生唾を飲み込み、優しく、慎重に乗っかる。



 ――体重計に。


「乗りましたか? 何キロですか?」


 六十五キログラム。


「なあ、それを知って何になるんだよ」

「いいから答えてください!」 

「…………六十五。なあ、これズボンまで脱ぐ必要あったのか? 衣類の重さを加味して量りゃよかったんじゃねーのか?」

「いえ、必ずその格好でなければだめです!」


 カーテン越しの深月の声は、どこか声高に聞こえる。

 布越しに、ほぼ裸の男が居て少し興奮しているのだろうか。


「では、脱いだものを全て着てください」


 カーテンの隙間から先程俺の脱いだ衣類が次々に放り込まれる。


 いそいそとワイシャツから順番に着ながら、


「なあ、これに何の意味があるんだよ。そろそろ具体的な事を教えてくれよ。いくらお前が恩人とはいえ、これじゃ全く意味が分からん」

「大丈夫です、大体これで終わりましたから」


 何が終わったんだよ。


「俺は、次にどんな危機に直面するんだ?」

「具体的な事は教えられないんです! それが規則なんです」

「規則って?」


 予知能力に規則も何もないだろうに。


「もう、夏樹さん細かいですね! そんな女々しくちゃ、モテませんよ!」

「なっ」


 こちとら命がかかってるんだよ!!

 と思いながらも助けられたことのある手前、声を大にはできなかった。

 代わりにこんな言葉を俺は思い出していた。


『私を好きになったらダメですからね!!』


「はっ!」


 命を助けられようが、だーれがこんな意味不明ガサツチビなんか好きになるか。

 まあ身長は少しは大きくなったみたいだけど。急に。


 俺にはゆきがいる。

 ……いやただ会ったら話すだけの友達以前の関係だけど。


 最後のネクタイを締めながらそんなことをおくびにも出さず考えていると、


「もういいですか? 開けますよ?」


 言い終わる前にカーテンを勢いよく開ける深月。


「いったいこれに何の意味が……深月も量るのか?服預かるぞ?」

「ハkッ!」


 深月は一歩後退し、噴火直前の活火山の様に顔を真っ赤にしておののく。


「量るわけないでしょ!! バカ!!」

「…………」


 暴言に異議を唱えるのを堪え、分かりやすく溜息を吐いた。


 その直後、突如三回入口のドアがノックされ、


「失礼しまーす」


 女生徒が一人保健室ここに入ってきた。

 俺たちは二人してその女生徒を見つめる。


「あれー、夏樹君じゃん、こんなところでどしたのー?」


 入ってきたのは雪だった。

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