シエスタの打ち止め

 自称天使から放たれた名前は、紛れもなく俺のものだった。


「どうして名前を知っているんだ。どこかで会ったか?」

「いえ、初めましてです」


 なんだそりゃ。


風林かぜばやし 夏樹なつきさん、十七歳、O型のおうし座、身長百七十八センチ体重六十四キログラム、得意科目は数学、苦手科目は英語で――」

「ちょっと待て」


 一体なんだコイツ。

 何故初対面からここまで的確に俺の事を知っているんだ。


 胸がざわつくのと同時に、俺は無意識に上体を起こしていた。


「誰から聞いた? お前は誰だ」

「私は天使です」


 それはもういいって。


「夏樹さんを助ける為にここへ来ました」


 突拍子の無い発言とは裏腹に自称天使は真面目な顔つきだった。


「助けるって……どういう意味だ」

「そのままの意味です! 時間がありませんから、とにかくついてきてください!」


 言い終わるか終わらないうちにブレザー越しにガチリと二の腕を掴まれ、愛玩動物とは思えない力で引っ張られた。

 ベンチから転げ落ちそうになるのを曲芸師のような動きで何とか回避し、直立する。


 すると改めて気づいたが、自称天使は相当背丈が小さい。俺の腹くらいまでしかない。


 そのチビが、


「さあ夏樹さん、行きますよ」

「はあ? 行くってどこにだ? てかお前誰だよ、名前は? どこの学校の奴だ?」


 俺の矢継ぎ早の質問には答えず、自称天使は屋上の入口へと小動物の様に走っていく。


「はーやーくー!」


 両手を拡声器にして叫ぶ自称天使のもとへ、俺は仕方なく歩くことにした。


 頼むからお飯事は余所でやってくれよ。

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