第41話 あれの記憶がある
浩一と別れて家に帰ると僕はひとりで考えていた。
警察に行く前にやっておくことがある。
僕は完全記憶能力を使ってある物の作成に取り掛かった。
うまくいくかどうかは分からない。
それでも僕等の手であのデブになんとか一泡吹かせてやりたい。
翌日、僕等は生徒会室に集合していた。
昨日までの経緯を生徒会メンバーに説明する。
「事情は分かった。メモリーにはお説教とお仕置きが待ってるから忘れないでおいて」
「わたしも分かりました。納得は出来ませんけど、今回はデートだけでは済まないと思っててください」
千花と小悪魔は反対するわけでもなく、ただ無表情のまま淡々と話していた。
浩一の件に関して特にこの二人は、僕には分からないような深い心の傷を負わせてしまっている。
それなのに何の相談もしないで浩一に会って話をしてきた事で、怒りの感情が沸き上がり戸惑うのは当然の事だった。
しかし一番の狙いがいまだに千花だと分かったので、これ以上危険な目に合わせないよう早急に浩一が警察に訴える以外に証拠がなかったのだ。
これは僕の自己満足でしかないのだけれど……
「それで?私たちには何を協力して欲しいのかしら?」
白鳥班のメンバーが身をのりだして質問してくる。
千花達の話を大事なところは伏せていたけど、同じ女性として、仲間として許せないのだろう。
まして佳純ちゃんと早苗ちゃんはつい先日襲われたばかりの当事者だ。
「僕が作ったこれの噂をそれとなく流してもらいたい」
「……わかったわ。もっと詳しく事情を聞きたいところだけど、それは後でいいからいまはあなたを信じる」
こうして生徒会全員でのミッションが開始された。
季節は間もなく初夏を迎える。
学生にとって待ち遠しい夏休み前にある最後のイベントといえば……期末テストである。
有名進学校であるうちの学校はとにかくテストが多い。
人生を決めるイベントのひとつである大学受験を考えれば、とにかくいい結果を残して推薦枠に少しでも入りたいので必死になるのは必然だった。
前回のテストではメモリーノートもなく、2年生のかなりの生徒の成績が落ちてしまったので挽回するために今回にかける意気込みは相当なものである。
「ねえ聞いた?あのマル秘ノートを作っていたのは、新生徒会長なんだって!最近は記憶喪失だから作れなかったみたいだけど、期末テスト用に作っているみたい。しかも今回は1年生から受験勉強の準備が出来るように1、2年生用の受験対策版もあるらしいよ?」
「聞いた聞いた。生徒会選挙でも生徒みんなのための勉強会を開催するって話だったもんね。でも今回の教材はうちの学校のための物だから、学校から持ち出し禁止になるって噂みたい」
「じゃあ絶対に勉強会に参加しないとね!」
廊下を歩いていてもあちらこちらで同じような声が聞こえてきた。
今回はノートの出所をはっきりとさせておき、学校側にも了解を取っている。
学校側としても生徒の学力が上がり評判もあがるのであれば問題ないとのこと。
しかも参考書でもないのに生徒間で闇取引されるくらいなら、生徒会主導で勉強会を開催してくれるのならありがたいとお褒めの言葉もいただいた。
多くの生徒が参加する可能性が高いので、ある設備をお願いし快く了承してもらった。
「先輩とわたしだけの愛の勉強会に終焉の日が訪れてしまいましたね……」
「もともと勉強会に愛なんかないから。勉強したのだって数回じゃないか」
「でも先輩はわたしの体に散々激しく叩き込んだじゃないですか……凄かったです」
小悪魔が抱え込むように両腕で自分を抱きしめている。
「ああ、たしかに(小テストを)やりまくったからな」
ドスン!
ガタン!
バサ!
千花は椅子から落ちているし、白鳥さんはプロジェクターを落としかけている。
1年生の女子達は僕の作った、ノートを四方にばらまいてしまっている。
「みんないったいどうしたのさ?ほら集中しよう?」
「変態!」
「クズ!」
「たらし!」
「女の敵!」
「エロリー!」
みんなが一斉に僕を罵って、誰が何を言ったわからないけど最後のは酷い。
僕はメモリーだ。
こうしてこの日は誤解が解けるまで、エロリーと呼ばれる羽目になってしまった。
小悪魔いまだに健在かよ!
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