第40話 懺悔の記憶がある
「俺はずっと大沢に脅されている。生徒会選挙の前から……」
「それは知ってる。第3学習室で行われた全国模試のカンニングだろ?」
浩一がハッと一瞬表情を変えて驚くが、まだ話は終わっていなかった。
「お前には全てお見通しか。つくづく不思議なやつだよ。カンニングしたのは認めるし、それも脅される原因の一つだ」
顔をしかめて唇を噛みながらさらに話を進めていく。
「俺と大沢は入学してからすぐに一度ぶつかりあってる」
ちょっと待て!?
僕が大沢の事を知ったのはつい最近の事だぞ?
「入学してから間もなく、千花が日直で早く登校した時の事だ。早い時間に登校したせいで一番出会ってはいけない奴と出くわしてしまったんだ」
千花が以前に名刺をもらってスカウトされ、この間ブタ発言した時の話だろう。
でも……なぜ浩一がそんなに詳しく知ってるんだ?
「いつもお前らが一緒に登校していたのは知っていたから、その日はメモリーもいないしたくさん話せるチャンスだと思って……」
遠くからずっとつけて見ていたのか。
それじゃあストーカー行為だろ。
ほんとコイツは……
「ずっとそんな生活してたから、歪んだ恋愛感情が生まれてしまったんだ」
「そうかもしれない……」
拳を握りしめながら俯いている。
今までの浩一なら何か言い訳か、または言い返して来るところだが本気で反省しているようだ。
まあ…当たり前なんだけど、今までがクズすぎたからだいぶマシだ。
「そこにどうブタが関係してくるのか僕には分からない。千花に責められるならともかく……」
「あのブタ野郎も俺と同じように千花を狙ってたんだ。千花が誘いを断って名刺を突き返した時からずっと……」
……ブタが千花に固執している?
「ブタ野郎が話しかけているのを俺が見ていた事に、ブタは気付いていたんだ。そして千花に拒絶されてから俺のところに来てこう言った。『どうせ俺達の思い通りにならないなら、痛い目見せちゃおうか』って……」
過去の話を聞いているのに、さっきから怒りは増す一方だ。
絶対あのブタは許せない……いや、許さない。
「……それで?」
「もちろん俺は激怒して口論になった。たとえ振り向いてもらえなくても、大事な人に変わりはない」
「なんですぐ僕と千花に言わなかった?」
もっと早く相談してくれていれば、いくらでも対処出来ていたはずだ。
「お前に頼るくらいならと……プライドが……」
「そのくだらないプライドのせいで、千花だけでなく生徒会の女の子達まで危険な目に巻き込んでしまったんだぞ!そして大事な相手にお前はあんな卑劣な真似を……」
抑えていた気持ちが心の底から込み上げてくる。
親友の裏切り……
恋人との別れ……
「お前たちふたりを傷つけて裏切って本当に悪かった。だからせめて今回だけでも協力させてもらいたくて俺はここに来た」
「……また僕達を騙す気じゃないだろうな?」
いくら改心したといっても脅されている人間を確証もなく信じることは出来ない。
何しろ今回はみんなの安全がかかっているのだから。
「俺が知ってる大沢の悪事を全て聞いてもらいたい。その中には警察に届け出る必要がある物も含まれる。だから俺を信用して欲しい」
頭を深く下げている浩一の姿を見る日が来るなんて……
僕がしばらく考えている間も頭を下げ続けている。
「……大沢に特大の天罰を下してやろう」
「ああ。それじゃあまずは……」
こうして浩一はブタの悪事を話し始めた。
内容はこうだ。
僕の知っている第3学習室でのカンニング。浩一がカンニングしただけでなく、ブタもカンニングしていたのだ。
千花の為に作っていたメモリーノートは最初は浩一が小遣い欲しさに売っていたが、大沢にバレて奪われその後は1000円で取引きされていたこと。
あんなのに1000円は高すぎるだろ……
女の子をスカウトしては、芸能界とは名ばかりで闇のDVD、すなわちアダルトビデオに出演させていて撮影の手伝いをさせられていたこと。
そして浩一を使い生徒会に侵入させる手引きをして可能であれば千花を、ダメなら女子数人を拉致する計画だった。
これだけでも驚きなのに、さらに……
「校舎に火をつけるように俺に指示してきた。さすがにそれは出来ないと断った。結局、火事が起こってしまったから結果的に俺が学校か警察に忠告していれば……」
放火を計画していたのは現場に姿を現した大沢(兄)だと思っていたけど、やっぱりブタだったのか。
そこまで放火にこだわるとは第3学習室の隠しカメラにまだまだ秘密があったのかもしれない。
でも放火の方がヤバくない?
「俺はもうどっぷりと足を踏み入れてしまってる。お前の記憶喪失で付き合えると思ったけど、千花にその気はまったくなくて拉致までさせようとして―――」
ガツッ!
僕は浩一の顔を力いっぱい殴っていた。
「これは千花の分」
ガツッ!
「そしてこれはあかりの分」
ガツッ!
「ナツ姉の分」
「まだまだあるけど、最後に俺の分だ」
浩一が避けようともせずに、じっと痛みに耐えようと待ち構えている。
僕はそっと浩一の頭の上に手をのせる。
「お前はとんだ大バカヤローだ」
浩一は僕の胸でただただ泣きじゃくっていた。
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