第34話 祝賀会の記憶がある

 生徒会選挙は波乱の中、幕を閉じた。


 浩一のメモリー陣営に対する妨害工作については、学校側に前もって情報を提示していなかったので騒ぎがおさまらないながらも選挙は続行された。


 結果は当然メモリー&白鳥陣営の大勝利である。


 ……結局最後まで大沢の顔は拝めなかった。

 副会長に立候補しておいて選挙に来ないとかありえないし、女の子狙いだけとはとても考えにくい。

 果たして大沢財閥のせがれがこのまま負けっぱなしでいるだろうか?

 今後も警戒しておかなければならない。


「ほらメモリー始めるよー!早くこっちにおいでよ」


 書斎にいた僕は早くリビングに来るよう千花に促された。

 選挙で全員当選を果たしたメモリー&白鳥陣営合同の祝賀会が僕のマンションで行われるところである。


「「「カンパーイ!!」」」


 もちろん高校生である僕達が乾杯で飲んでいるのは、ノンアルコールスパークリングワインだ。

 間違いなくノンアルコールのはずなんだけど……


「ちょっと先輩聞いてますか?」


「ちょっとメモリー聞いてるの?」

 

 千花と小悪魔にこれでもかってくらい絡まれていた。


 最近では本物のアルコールと錯覚するくらい完成度が高いノンアルコール飲料に、酔ってしまう人が続出しているらしい。

 その中でも多い現象が気分の高揚である。

 この二人も例に漏れずハイテンションになっている。


「あのSNSはなんなのよ!私たちの応援サイトじゃなかったじゃない!まったく聞いてないんだけど説明してくれるかしら!」


「そうだ!そうだ!私も聞いてなかったから友達にも勧めちゃったじゃないで……ってなんで人が怒っているのに笑っているんですか!」


「だってお前らシンクロしすぎてて、まるで姉妹みたいに見えたからつい……クックック」


 最近このふたりはなにかと一緒にいる事が多く、同じような要求を僕にしてくるものだからつい温かい目で見守ってしまうのだ。決して馬鹿にしているわけではなく、むしろ微笑ましい。


「メモリーいい加減にして。そこに座りなさい」


「すでに座っています」


「……」


 ま、まさかね。このくだり何処かで……

 これだけの人数が集まっているのに、モードに突入しないよね?


「山」


「川」


「……」


 はいー?なんのテストこれ?

 さすがにこれは初めてだった。今、合言葉を交わす必要など当然ない。

 気付けば白鳥さんやその後輩までもが息をのんで、僕らの動向を伺っている。


「千花の笑顔は?」


「宇宙一……あっ!」


 条件反射で小学生の頃から高校に入るまで、毎日言わされ続けていた言葉をつい口に出してしまった。

 周りの反応を恐るおそる見てみると、その場にいる全員がまるで視力の悪くなったお年寄りのように目を細めていた。


 こ、これが噂に聞く集団ジト目なのか……


「そ、そんなに小松さんの笑顔は素敵なのかしら?ではわたくしの笑顔を例えるならいかかでしょう?」


「えっ!?」


 なんで白鳥さんまで話にのっかって参戦してきちゃうわけ?

 これ本当にノンアルコールだよね?


「せかい―――」


「んんんっ!」


「世界よりも大きい宇宙一……です」


 急に喉の不調を訴える白鳥さんにびっくりして、適当に答えてしまった。


「えー!ずるいー!先輩先輩わたしは?」


「港区一」


「わたしだけなんでですかー!しかも学校近辺なだけじゃないですかー!」


 小悪魔よ人生は甘くはないのだよ。今の僕のように……



「それでなんでわたし達には、全部言ってくれなかったの?」


 ここまできて話戻すのかよ。

 文章の構成が…ゴニョゴニョ…んん?


「どこで誰が聞いているか分からないから、白鳥さんにだけ伝えていたんだよ。ごめんな、敵を欺くにはまず味方からって言うだろ?孫子の有名な兵法だよ」


「除け者にされてあまり気分は良くないよ。上手くいったからいいけど今度からはちゃんと事情を説明してよね。でも……次はないからね」


 出来ればこんな揉め事にはもう巻き込まれたくないから、違った意味で次は勘弁してもらいたい。

 次があったら何をされるのか聞きたいような聞きたくないような。


 しかし記憶喪失のフリして気楽に生きていこうと決めたのに、気付けば生徒会長って……

 スローライフを望めばのぞむほど遠のいていくなんて、まるでアニメか小説だけど、ラノベ作家の僕らしいな。


 まだまだ僕等が受けた精神的ダメージの償いとしては、事故の分は返してもらってないけど千花、小悪魔の心のケアをしっかりしていかなければいけない。


 裁判ざたになっているので、忙しいナツ姉とは後でしっかり話をするつもりだ。



「なんだか生徒会は氷河先輩のハーレムですよね」


 な、なんて爆弾発言をするんだよ。

 白鳥さんの後輩のひとりが、なんの脈絡もなく突然呟いたのだ。


「……」

「……」


 気まずい沈黙が続き、それを破ったのは白鳥さんのスマホにかかってきた1本の電話だった。


「はい。はい。えーーー!わ、分かりました、これからすぐに向かいます」


「いったい何があったの?」


「学校の一部が火事になっているって……。火はもう消し止められたらしいけど、現生徒会のメンバーはすぐに集まってくれって」


「それなら僕等も直ぐに向かおう」


 このタイミングでの火事とは、まさか……


 祝賀会が一変して大変な事態になってしまうとは。


 僕達は不安いっぱいのまま急いで学校へと向かった。

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