第31話 チアガールの記憶がある

「メモリーそれで?」




「先輩次はどうしたら?」




「ストップ、ストーップ!ふたりともなんでさっきから耳打ちでしか会話しないのさ?」




「どこにスパイがいるか分からないから」




「どこに盗聴器を仕掛けてるか分からないから」




 現在、僕等3人は選挙活動を行なっていた。


 学校で作業するのがもっとも効率がいいと思うかもしれないけど、クズペアに対抗するにはあまり情報を漏らしたくはない。




「僕のマンションなんだから、そんな必要ないだろ!」




 そうなのだ。


 情報漏れを懸念して、マンションで活動を行っているのだ。


 それなのに千花も小悪魔も女子ふたりが少し顔を赤らめて、交互に耳打ちで会話を要求してくるのだ。


 小悪魔の場合は本当に盗聴器を仕掛けていた可能性があるしシャレにならない。




 ……本当にないよね?






「チッ!?」




 え?


 い、いま舌打ちされたようなされてないような……




「千花は2年生の親しい女子にはほぼ伝えたよー」




「わたしも1年生にほぼ終わりましたー」




「おつかれさま。どれどれ……おー!早速アクセス数が伸びてる伸びてる」




「ほんとー?」




「うわ!どんどん増えていきますよ!」




 今回の生徒会選挙で僕が行ったのは、学校内用SNSを事前に立ち上げる事。




 あの忌々しいスキャンダル事件のSNSでトラウマになりかけていた僕が、今度は逆に利用してやろうと思っていたのだ。




 生徒会選挙規定の中にSNSは禁止事項に含まれていない。




 そしてこの作戦を取った最大の理由は、千花、小悪魔そして……結果的にだけど白鳥さん陣営と共同運営を目指している事をアピール出来るのだ。




 千花も小悪魔もカースト上位の美少女だが少なからず今でも僕や千花に疑念を抱いている生徒もいるだろう。


 そこに運良く白鳥さんから提案を受けたので、この作戦が完成された。


 白鳥さんの生徒会での実績や姿勢は高く評価されている。




 逆に言えば白鳥さんが生徒会副会長に立候補した事によって、僕、すなわち生徒会長をサポートすると宣言したようなものだ。




 そして僕の周りの女の子達には華がある。




 僕は作家や芸能活動的な事も行ってはいるものの、見かけは地味なので女子生徒に恐らく人気がない。スキャンダルが出てしまい男子生徒達にも反発されている可能性だってあるのだ。




 しかし彼女たちは圧倒的に男子からの人気が高く、女子生徒達からの信頼も厚い。


 実際に彼女たちがSNS拡散メッセージを送ってからまだ30分しかたっていないのに、もの凄い反響だ。




 さらにこの作戦は僕の弱点も補ってくれる。


 僕は記憶喪失になっている。実際に歩き回って質問でもされてしまうと、どこかでボロが出る可能性が高い。




 そしてライバル陣営が同じSNS作戦をとっても、男子票にほとんど影響は出ないだろう。




「ねえメモリー、白鳥さんも拡散してくれたかなー?」




「ああ、さっき終了メッセージが届いていたよ」




「え?ひょっとしてアドレス交換したの?」




「連絡取りあうのは当たり前だろ」




「わたしまだ先輩のアドレス知りません!ぷんぷんですよもう!このろくでなし!」




 そこまで言われる筋合いはない気がするけど、仕方がないから後でアドレス交換でもするか。




 こちらの選挙活動はいたって平和である。






 * * * *




 ―――翌日朝の校門前




「……ねえ、あれなんだと思う?」




「……チアガールですかね?」




 なんであんな格好しているのが学校にいるんだよ!


 しかもあれはうちの生徒ではない。


 大学生?もしくは社会人?


 どちらにしても浩一陣営の旗まであるから明らかに選挙違反だろ!!




 浩一が鼻の下を伸ばして演説をしている。


 訴えていることはまったくもって意味不明だ。相変わらず阿呆なのにどうやって立候補できたのだろう。


 やっぱりクズって呼んでやろうかと迷っていると……




「まさかあそこまでしてくるとはびっくりね。無駄にお金を使って頭は使わない、向こうの陣営にピッタリね」




「白鳥さんおはよう。でもあれって選挙違反じゃ……」




「ならないわ。あのチアガール達を見てごらんなさい、校門の外でパフォーマンスをしているわ。きっと学校側にはイベントと称してお金でもたくさん寄付したのでしょうね」




 まじか。


 そんなのありかよ。




 少し心を落ち着かせる。




 ……上等じゃないか。




「いくらお金を積もうが相手は浩一と大沢だ。僕にしてみればもっとも可憐で優秀な白鳥さんと闘うよりも随分と気が楽だしね。相手のペースに巻き込まれずに自分達にいま出来ることを頑張ろう!」




「……」




「……」




「……まあそんな……」




 えええええええ?それだけ?


 ここは流れで『おー!』とか言っちゃうとこでしょ?




 千花も小悪魔も目が魚のように死んでるし、白鳥さんは俯いているし……




 ね?みんな頑張ろうね?……ひとり焦るメモリーであった。


 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


読んでいただきありがとうございます。


新作を書いたのでそちらもよろしくお願いします!

タイトルは、


『ガチでオタクな僕に、人気絶頂アイドルの妹が出来ちゃった件』



『別れさせ屋』の俺に『レンタル彼氏』の指名をするのはやめてくれ!?


の2つです。


よろしくお願いします! 


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