第26話 立候補した記憶がある
僕の羞恥話で幕を閉じた対策会議の翌日、たとえメンタルがボロボロであっても学校へ行かなくてはならない為、気分はあまりのらないけどマンションの高速エレベーターを降りていく。ちなみに昨日からテンションも急降下中である。
「……なんで朝っぱらからいるんだよ?」
「先輩ひどいですー!その前にグッドモーニングですー。あれ?聞いてませんでしたか。昨日の話し合いで決まった決定事項ですので今日からお供させていただきます」
あの暴露話の中でいつ話し合いが行われていたのか、まったくもって不明である。
お供なんて言葉を使われると、昔おじいちゃんがテレビでよく見ていた黄門さまの格さん助さんを思い出す。なんだかあの頃がすごく懐かしい。
「みんな僕に過保護すぎるんだよ。3人には記憶の事を打ち明けたけど、その他の人たちには悪いとは思うけど記憶喪失のままの方が安全だし、新しい自分でいろんな事にチャレンジしていきたいんだ。僕は強くなりたいから」
「そうは言っても実際に危ない目に合ったじゃないですか。わたしも含めてみんなメモリー先輩の事が大好きだから心配なんですよ。もちろんわたしが一番先輩の事を想っていますからね」
「はーいストップ!そこまでよ。ちょっとでも目を離すとすぐこれなんだから、あかりちゃんは油断も隙も無いわね。話は聞いたかしら?今日からわたしもお供させてもらうからね」
出たな助さん……じゃなくて幼馴染の千花である。
一緒に通っていた頃の待ち合わせ場所であるコンビニの前で待っていた千花が僕らの会話に割って入ってきたのだ。
なんでふたりともわざわざお供なんて言葉を使ってるんだ?
普通は目上の人に対して使う言葉だけどひょっとして……
「お供って誰が言いだしたの?」
「夏美さんです」
「夏美さんだよ。車で送迎するって言いだしたから阻止……目立つからやめた方がいいって私たちが説得したら、じゃあお供してもいいって言われたの」
……拗ねたナツ姉のカワイイいたずらか。気付かないこの二人も残念過ぎるな。
目立つから送迎はしない事になったのならこれは……
僕の右側には1年生で人気の高い小悪魔が、左側には学校でも1,2を争うカースト上位の幼馴染がいるともなれば目立つなという方が難しいだろこれ。
でも僕は事故に遭ってから逃げる事ばかり考えていたけど、過去の自分を負う必要がないのならどうせなら思いっ切った人生を送ってみようと密かに決意していた。短い人生ポジティブに考えて生きていかなければいたずらに時間を損してしまうだけだから。
まずはせっかくこんな美少女の二人と一緒に通学できるのだから、この幸運に感謝しなくては。
「ところで千花はこの間のテストで補習とかなかったみたいだけど、今回はノートもなかったのにどうやって乗り切ったんだ?」
「それはね……2年生に上がる辺りから、いつまでもメモリーノートに頼っていたら学校のテストでは通用しても今後進学しても大学ではついていけなくなると思って。それで自分なりにお家でノートを作っていたの。きっとメモリーはノートをただ暗記しろと言っていた訳ではなく、ノートを作るその過程で自分なりに考え理解してまとめる事に意味があるって教えてくれてる気がして」
……心配しなくても大事なことに自分で気付いていたのか。
これは口で教えてもどうにかなるもんではない。テストに限らずこの工程は人生の中で必ず必要になってくる。小説家として誰よりも早く社会人として働く僕が千花に対してもっとも伝えておきたい事だったのだ。
もう千花の成績は上がることはあっても下がることはないだろう。
校門に近づいて行くと今日は身だしなみのチェックを生徒会のメンバーが行っていた。
うちの学校では出来るだけ教師が関与しないで、生徒が自分自身で物事を解決できるようにと自主性を重んじている。
「朝早くから何の得にもならないのに良くやるよねー」
「わたしなら少しでも時間があるなら先輩にくっついていたいからムリですね」
「ああ、そうだね」
僕らは特に服装には問題がないので横を通り過ぎて行こうとする。
すると……
「ちょっと!そこの女子をはべらせてる人待ってくれるかしら?」
……僕の事?だよねきっと。
「なんですか?服装に問題はないかと思いますが」
「もちろん服装に問題はないわ。ただ朝から女子を堂々と両脇にはべらせて登校してくるなんて少し破廉恥だと思わないかしら?」
は、破廉恥?いつの時代の人だよこの人。
同じ2年生で周りの呼び方から副会長だと思うけど、今まで接点がなかったから記憶がない。
「ふたりは僕の信頼できる友人で一緒に通学していただけですから、あなたが想像するような不純異性交遊はしていませんが?」
「ふ、ふ、ふ、不純異性―――」
「ふ、副会長大丈夫ですか?しっかりしてください!」
なんだか雲息が怪しくなってきたので、その場を離れて教室へと向かって行った。
名残惜しそうな表情をする小悪魔と途中で別れ、千花とふたりで教室へと向かう。
「さっきの人は次期生徒会長候補筆頭の白鳥エリカさんだよね?」
「よく知ってるな。僕は学力テストの結果表でいつも1番に名前があるくらいの認識しかないけど」
「あんな有名人を知らないあなたの方が珍しいわよ。たくさんの会社を経営している白鳥グループの一人娘で成績優秀、外見はあの通り学校でも1、2を争うような美少女よ」
生まれつきなのかブロンドの綺麗な長い髪に、スラリとした長身でモデルのような容姿、ケチのつけようがないプロポーションはまさに美少女だ。
学校で1、2を争っている美少女のもう一人はお前だけどな。
「なるほど。素晴らしい家柄の期待を一身に背負うお嬢様ってわけか」
「そうね。来週から生徒会選挙の告知があるから、生徒会長の座を狙う彼女にしてみれば今朝もアピールタイムってわけね。もうすぐ全国学力模試もあるのによくやるわよね」
進学校である我が校では、受験に備えて生徒会活動も1学期が終わる前に3年生は引退し2年生の中から生徒会長も選出されるのだ。しかも生徒会選挙が行われるタイミングの直前に全国学力模試が行われる。前回の学力テストと違う点は全国順位も出るので現在どれくらいの位置に置かれているのかが分かるのでかなり重要な試験である。
「……あのさ、僕も生徒会にしかも生徒会長に立候補しようと思っているんだ。だから僕に力を貸してくれないか?」
「えっ!?えええええ!メモリー本気なの?」
「ああ本気だよ。いつまでも浩一の事ばかり気にしていても前には進めないし、今の僕にできる事、今の僕にしか出来ない事に取り組んでみたいんだよ。今までの僕は欲も権力も興味はなかった。でもそれらを使ってより良い環境をみんなの為に作れるのなら挑戦する価値はあると思うんだ」
「……いいわ、わたしも協力する。メモリーが自分から何かを望むなんて初めてだもんね。なんだかカッコイイよ」
「それは当選してから言ってくれよ、落ちたらカッコ悪いから。まずは先に行われる全国学力模試を全力で頑張ろう」
翌週に入り生徒会長の立候補届を提出した。
僕は人生のあらたなスタートラインに立ったのだ。
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