第5話 一緒に通学した記憶がない

 うん、2日目のカレーはさらに美味しい。

 昨夜作ったカレーの残りを食べ終えエレベーターに乗りエントランスを抜けて外に出る。


 「先輩おはよーございまーす!」


 ・・・やっぱりか。


 「おはよう。それじゃあ先に行くので」


 「朝から瞬殺しないでくださいよー!」


 朝から待ち伏せされないために、帰宅の際は最新の注意をはらってきたのだ。

 昨日は仕方なく家バレしてしまったが、非常に悔やまれる。


 「ちゃんと朝ご飯食べましたー?」


 「ああ、カレー食べたよ」


 「え!?昨日の食堂も夕食もカレーでしたよね?」


 「カレーが好きなんだよ」


 これは嘘ではない。


 そしてもう一つの理由が、カレーを食べていると頭がすっきりするのだ。

 僕は完全記憶能力を持っているので、通常の何倍も脳が疲労してしまう。

 

 最近の研究ではカレーの着色料に使われるクルクミンが記憶力を向上させ、認知症やアルツハイマー病、うつ病などの原因となる脳の炎症を抑える効果があると言われている。

 クルクミンはウコンから抽出され、ウコンは馴染みがあり耳にしたことがある人は多いはずだ。


 「わたしは?」


 「好きじゃないんだよ」


 「ぶぅーーーーーー!」


 もちろん嫌いでもない、ウザいだけだ。


 「ここまで電車で来たら遠回りじゃないの?」


 「せっかく家を教えてもらったんですから、一緒に登校できるチャンスをみすみす逃せません!入院するまでは邪魔者がいたじゃないですか!」


 好きで教えたわけじゃない、まんまとはめられたのだ。

 お前が邪魔者だ・・・とはさすがに可哀想なので言わないけど。


 「以前は誰かと通学してたって事か。いまはひとりだけど」


 と通っていたから。


 「いまは目の前に美少女のわたしがいるじゃないですかー!!」


 ぷんぷん怒りながら、小さめな小悪魔はぴょんぴょんとジャンプして抗議してくる。


 「ごめん小さくて見えなかったよ」


 「もう!!・・・でも昔より相手してくれるから嬉しいです!!へへへ」


 そういえば以前はもっと距離をおいていた。

 彼女がいたってこともあるけど、とにかくまとわりつかれて迷惑だったし。

 今はたったひとりだけ無条件に信じてくれた事が少しだけ嬉しかったのかもしれない。

 距離が近いと感じるのは記憶がないと思って、小悪魔がガンガン攻めてくるからだろう。

 

 ふたりで10分ほど歩いていると、50メートル程先にあるコンビニが見えた。


 ・・・完全記憶能力ではっきりと記憶しているけど小悪魔は気付いていない。


 僕はコンビニ前を通り過ぎる際に、ほんの少しだけ店内に目を向けてを確認した。それは見間違いではなかった。


 ここのコンビニは通学の際に彼女と待ち合わせをしていた場所である。

 だから元カノがこの場にいても不思議はない・・・付き合っていた頃なら。


 先ほどの一瞬の記憶を思い出す。

 僕の姿に気付いてこちらに歩いて来ようとしたものの、隣にいる小悪魔に気付き驚きの表情を浮かべて急いでコンビニの中へ入って行ったのだ。


 ドリンクコーナーで背を向けて立っていたけど、昔の記憶がない僕にとっては幼馴染ではなくただのクラスメイトのひとりにすぎない。


 「メモリーせんぱーい!どうしたんですか?」


 「・・・別に」


 不思議そうに首を傾げている。


 「あーそれって昔流行った女優の真似ですね!エリなんとかさんの真似!」


 「・・・覚えてないよ」


 コイツ・・・やっぱり気付いてるのか?

 危なくエリカ様って答えるとこだし、モノマネなんて記憶がなければできるわけがない。


 「そうですよね!記憶があるならいつものように、わたしの大きな胸を褒めてくれますもんねー!ちょこっと触ります?それとも鷲掴みにします?」


 「ば、ばか声がでかい」


 校門前で今日イチの大声を出して叫ぶから、みんなが僕を見ながらヒソヒソと話していた。


 ・・・やっぱり何も気付いていない、ただウザいだけの小悪魔だ。

 僕を孤立させて独占しようとしてるのかとさえ思ってしまう。


 これ以上、小悪魔と一緒にいるのは危険だ。


 「じゃあさようなら!」


 「ちょっと先輩!永遠の別れみたいな挨拶---」


 なにかまだ言ってるけど、僕は走り去っていった。


 下駄箱に着くとスマホの着信音が鳴っている。


 『あ、氷河くん?わたしは編集担当の佐々木。あなたいま記憶を失っているってほんとなの?SNSがまた炎上してるのよ』


 ・・・おかしい。

 学校以外で記憶喪失の話はしていない。誰かが故意に書き込んだのか?


 『はい。情報はSNSで拝見しましたが覚えていません』


 『そう・・・ただ少し風向きが変わりそうなの。いま話しても何が何だか分からないだろうから近いうちにまた連絡するわね』


 相変わらず慌ただしい人だ。

 いい人で憎めないキャラだけどさっぱり要件が分からない。

 そういえばスキャンダルの原因となった小説の発売日は昨日だったから、話忘れているのだろう。


 SNSが炎上?今度は小悪魔との写真でも撮られたのか?

 僕がスマホで検索するとそこには・・・

 

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