第3話 勉強した記憶がない
「ねえ?僕なんかといるから君まで睨まれてるよ」
「そうですね〜!みんなの羨望の眼差しが痛いですね〜。仲良いアピール成功ですね!それとあかりですからわたし」
どう見てもみんなが僕を軽蔑してるだけでしょ。女性問題で話題になってるし。
「白石さんも僕に構っていたら、ボッチになっちゃうよ?」
「もう!前みたいにあかりってちゃんと呼んでくださいよー!それに・・・わたしはメモリー先輩を信じてますから!」
前から白石だよ、1年前に突然現れてからずっと。
「まったく覚えてないんだよ。それにどうしてそこまで信じてくれるの?世間では浮気男で通っているみたいだからひょっとしたら、いきなり襲ってしまうかもしれないよ」
「どうぞどうぞ!生モノですのでお早めにお召し上がりください!ピッチピチの生JKですよ。好きな人を信じるのに理由なんてあるんですか?信じるの当たり前じゃないですかー!」
「こ、声が大きいって!生クリームみたいに美味しそうに言わないでよ。みんなが見てるし」
無駄に注目を浴びてしまった。
『食べちゃうって』
『な、生とか聞こえたよ』
どうしてくれるんだこれ。
すでに印象最悪だから構わないけど。
「わたしは自分で見た事しか信じませんから噂なんてほんとどーでもいいんです!」
大声で叫んだのはわざとなのだろう。食堂内が一瞬で鎮まりかえる。
僕も同感だ。記憶されたものしか信じない。
「さあメモリー先輩、いつものように食後のキスを・・・」
「ヤダ!」
・・・この小悪魔も絶対に信じない。
* * * *
午後の授業はいたって平和だった。
原因は来週に迫っている学力テストのせいである。
テストが近づくと受け持ち教科の教師達がテスト範囲のヒントを出してくれるので、この時ばかりはみんな真剣なのだ。
いつもであればノートや教科書に書き込みをするけど、今回の僕はノートを一切とっていない。
今の僕にはもう必要ないからだ。
言葉を記憶し黒板に書かれたヒントを記憶していく。
パッと1度でも見るか聞きさえすれば問題ない。
ちなみにノートは今日の登校前に早朝から全て処分した。
授業も終わりホームルームが始まるのを待っている時だった。
「なあ、そろそろマル秘ノートまわってくる時期だけどどこで止まってるんだよ?」
「そういえばまだわたしも見てない」
・・・もうそんな物は存在しない。
なぜなら僕が完全記憶能力を駆使して作成していたのだから。
僕が丁寧にノートをとっておき、それを元カノに見せてあげたところクラス中でコピーしていたのだ。
今となっては誰のおかげかさえも忘れられている。
「ま、まずいよ、普段のノートもまともに取ってねーよ」
「そ、そうだ千花はいつもきちんととってるわよね?」
「え、わたしも・・今回は・・」
もともとカースト上位の元カノの評判を上げる為に僕がしてあげていたのだからある訳がない。
彼女は勉強だけが少し苦手なのだ。
・・・それで昼休みに食堂から戻ってきたら、元親友が僕の机を物色していたのか。
記憶がなくなってノートを間違えて捨ててしまったからないけど。
どうやら今回は他のクラスも含めて平均点が大幅に下がってしまうかもしれない。
僕はあまり目立たないようにいつも通り全て90点前後に揃えるつもりだ。
ホームルームが終わると同時に再びーーー
「メモリー先輩、一緒に帰りましょ!」
「ヤダ!」
「うわ!また瞬殺、毎日一緒に帰っていたんです!」
この見え透いた嘘を堂々と。
「じゃあテスト勉強するから今週はムリ」
「じゃあってそれ今考えたヤツじゃないですか!ご安心ください!テスト勉強はいつもわたしに教えてくれるので一緒にお勉強です!」
・・・教えたのはたった1回だけだ。
しかも下校時間に校門で待ち伏せされ大声で嘘泣きされて仕方なく。
「そんな記憶はーーー」
「うぅ・・・うぃっぐ・・忘れてしま・・」
「わかった!わかったから!忘れて悪かった。だからここで泣くな」
ほんとに大声で嘘泣きするからつい受け入れてしまった。
「じゃあそーゆーことで!?」
やっぱり嘘泣きだ。
ほんとは家でまったりできるはずなのに、この小悪魔め。
「それじゃあ図書館でも行くか?」
コテンと頭を横に傾けて、不思議そうな表情をする小悪魔。
「記憶がないのにうろうろしたら危ないに決まってるじゃないですかー!退院して間もないですよね?いつも通りうちか先輩の家ですよ!」
だからファミレスで1回勉強教えただけだって。
たしかに退院後間もないのに外をぷらぷらしてるのは不自然だし、覚えているはずのない図書館でボロを出すとも限らない。
そうすると2択か・・・
僕はまんまと小悪魔の術中にハマっている事にも気付かず、考えに考えて決断するのであった。
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