第17話 きっかけを作る方法~ありがとう~

どうしよう。

本当に・・・どうしたらよいのだろうか。

神楽のヒントを得る為に林君達のライブに行った。

けれども、ライブの衝撃と林君達の喧嘩で全部飛んでしまっている。

あれから、小倉君とは連絡を取り合っているし、神社にも来てくれる。

林君は、夏期講習に来るようになって消息不明(自分の中では)ではなくなった。

それでも、小倉君曰く仲直りはしてないらしい。


色んな事が頭を支配している。

夏期講習・・今度こそ満点でも取らないと母さんが発狂する。

神楽・・・相変わらずロボットみたいだと言われる。

林君達・・・これは、自分にはどうしようもないのだか・・どうしたら・・。

どんなに悩んでいても時間は過ぎていく。

壁に掛けてあるカレンダーが、神楽の本番は明日だと告げている。

朝、家を出る時は母は新しいビデオカメラを箱から出していた。

母は、親戚中に連絡を取ったからきっと、祭りは満場御礼になるはずだと喜んでいた。


あぁ・・鉛は減らない。

それどころか・・・溜まっていくばかり・・・。

はぁ~・・どうしたら・・・。



明日の祭りのため社務所の商品を補充する。

お守りに絵馬・・それと、流行りの御朱印帳。

御朱印自体は、御婆さんが書く。

綺麗な字で流れるように書く御朱印を書けたら、こんな自分でも誇れるかもしれない。

お祭り自体は、夕方から始まる。

自分は、祭りのフィナーレ神楽の出番までここで商品を売る。

そういえば・・祭りの間は猫たちの避難場所はどこにすればいいのだろか・・。

いつも暑いときは、涼しい居間に陣取っていし、夜は・・・外に出て遊んでいるのだろうか?

でも、明日は人が多いから外には行きたがらないかも知れない。

・・・居間のクーラーを点けておいても良いだろうか・・・?


お守りが入った段ボール箱を運んでいると後ろから声が聞こえた。

市川さんが明日のために多く納入したものだ。

売れるといいのだけれども・・・。

「大変そうだね?手伝うよ。」

聞き覚えのある声が後ろから聞こえる・・・。

少し驚いたけれども何故か、彼が来ることがわかったような気がしていた。

「ありがとうございます。林君。」

ゆっくりと振り向いてお礼をいう。

何日ぐらいぶりだろうか、林君が比嘉丹神社に来たのは。

林君らしい柔らかい笑顔と声が自分を見ていた。


林君に手伝って貰い商品の補充が予定より終わり、休憩することを許された。

何も言わずゆっくりとした動きで林君が自分の前を歩く。

林君は、どんどん神社の裏へ回っていく。

・・・?

林君の顔は、吹っ切れたような・・。

それでいて、悩んでいるような・・・。

そんな顔をしているように見える。

「亮二と会った?」

「?・・はい。たまに、メールが来ます。」

「そう・・じゃあ・・俺たちが喧嘩しているって事は知ってる?」

「え・・っと・・はい。」

「ふぅ~ん。」

林君の声に暗い色が混じる。

どうしたのだろうか・・?

何か・・自分は林君の機嫌を損なうようなことを言ったのだろうか?


「あの・・小倉君から喧嘩の内容を聞きました・・その・・自分が言うことではない事はわかっています・・けれども・・なぜ・・相談しなかったのですか?」

「・・・・なぜ・・なぜ・・その理由を知りたい?」

「えっと・・・自分が聞いていいのなら・・その・・。」

「藤城さんって、意外にお節介だね・・それとも、亮二の事が好きだったりする?」

「いえ別に・・。ただ、自分がライブにお邪魔したせいで・・。」

「ははっ!即答!俺は・・好きだよ亮二の事・・・尊敬してるし・・憧れてる・・亮二の隣にずっと居たい。・・・俺は・・・俺は・・・亮二と生きて行きたい・・・この気持ちが・・わかる?」

・・・・。

・・・・・・・。

なんと言えば。

「わっ・・わかるとは言えません。自分は、そう言う気持ちになった事がないので・・その・・いつからですか・・。小倉君は・・林君のことを親友だと言っていました・・その・・いつからその気持ちに・・?」

「いつからだろうね?自分でもわからないんだ。もしかしたら・・初めて会った時かもしれないし、初めて一緒に音楽を演奏した時かもしれない・・・わからないでも・・・この気持ちは嘘じゃない。それに、亮二が藤城さんと仲良く話している時は邪魔したくなる・・女子に人気なのも気に入らない・・けれども・・・俺は亮二の音楽を世界中の皆に知らしめてやりたい。亮二の音楽を・・世界に知らしめる事が俺の仕事にしたい。・・そんな気持ちで一杯になるんだ・・。」


「だから・・絵馬を盗んだんですか?・・・それに、返してないですよね?」

林君はカバンの中から、絵馬を出して見つめている。

「やっぱりバレてた?これ・・俺のお守りにしたくて。俺もずっと・・亮二と音楽がしたい・・でも、俺は亮二・・・亮二のサポートがしたい。亮二が世界で活躍できるように・・まず、日本の音楽会社に就職しながら、亮二の音楽のサポートをする。それで・・金が溜まったら会社を立ち上げるんだ・・俺と亮二の会社。それから、武道館に立てるように・・いつかは海外でも活躍できるように・・だから俺は普通に就職したい。」

・・・。

自分には、林君も小倉君もお互いを思い合っているように見える。

たとえ、その思いの形が違っても。


「小倉君には・・その・・・伝えたりはしないんですか?」

「えっ・・藤城さん言える?今まで親友だった奴からそんな事聞かされたら困るでしょ?それに・・・・俺は亮二を困らせたい訳じゃない。」

「その・・気持ちじゃなくても・・進学に対しての思いというか・・・その・・考えをです。きっと・・小倉君は、相談して欲しかったんじゃないかなと・・・。何も言ってくれないのが・・その嫌だった・・とか?」

「そう・・かな・・・。俺たち・・こんなに喧嘩が長引いたの初めてだし・・・どう・・声を掛けたらいいのか・・・。」

怒られた小さな子供の様に項垂れる林君が泣いているように見えた。

解決?ううん・・和解?・・違う。

そうじゃない・・どれが正解とか、間違いじゃない・・。

思いの形も色も誰かが決める事じゃない・・・。

泣いていた小倉君も悩んでいる林君もきっと・・・同じところに居るはず・・・。

自分には・・この言葉しか出てこなかった・・・。


「じゃあ、今日、お祭りに誘ってみましょう!」

きっかけ・・きっと、2人にはきっかけが必要なのかもしれない。

自分が、ライブハウスに行けたように・・・。

誰かの何かがきっかけになれば・・・。



夕方、鳥居の前に不機嫌な小倉君と申し訳なさそうな林君が自分を見ている。

「おいっ・・お前・・謀ったな。」

「えっ・・・と・・すみません。」

あの後、やっぱり連絡が出来ないと言う林君に代わって、ライブのお礼がしたいから祭りに来て欲しいとメールを打った。

「で!お礼ってなんだよ!」

不機嫌な林君の声が自分の頭に落ちてきた。

「あの・・えっと・・このチケットを2人にと・・思いまして・・えっと。」

自分でもわかる・・目線が泳ぐ。

「ふぅ~ん。この、2人で2000円のチケットがお礼ね!俺らのライブは2000円かよっ!」

「いえっ・・えっと・・神楽も見ていきます?」

「それは、お礼じゃねぇーだろ!」

小倉君のあまりの形相に喉から、声が抜けて間抜けな音がなる。

「ひょぇ・・・。」

小倉君の気迫に自分が言い淀んでいると林君が助けてくれた。

「まぁ!待てよ亮二!藤城さんお礼がしたかっただけなんだって!」

「・・・・。ふんっ!」

小倉君は、林君を一瞥しただけで黙ってしまった。

林君と自分は、とりあえず作戦成功と目線で会話をした。


小倉君の不機嫌な足音が自分の前を通り過ぎる。

「ごっ・・ごめんなさい・・どっどうすれば・・いいのか。」

「いいよ。久しぶりに亮二の顔・・見られたし・・それにきっかけさえあれば・・。」

「おいっ!行くぞ!」

「林君!頑張ってください!」

自分には、それ以外の言葉は出てこなかった。

屋台の光に向かう2人の後ろ姿が、ライブの日の後ろ姿と重なった。



あぁ・・・。どうすれば・・・。

林君達を見送った後、自分の定位置に着いた。

色んな緊張が、指先から色を奪っていく・・。頑張らないと・・ちゃんとしないと。

自分に活を入れたところなのに・・・。

多分、いま一番会いたくない人達に会ってしまった。

つまり、さっき社務所に母とお爺様が来た。

「依天ちゃんが、今年こそ受験に合格しますようにって書いたわ。それと、今日の神楽が成功しますようにってお願いしたの。でも、依天ちゃんの実力があればどっちも問題なんてないわぁ。そうよね、お父様。」

「・・・。麗華。依天は、今から準備があるはずだ行くぞ。」

母とお爺様の出現で緊張が高まっていく。

膝の上に置いて手は汗でまみれている。

さっき、お茶を飲んだのに口から水分がなくなってくる。

林君達を仲直りさせようと誘ったのに・・・。

どうしよう・・失敗したら・・。

それに・・・結局、市川さんと御婆さんから合格点を貰えなかった。

さっき買ったはるみのから揚げが喉を通らない・・。

あぁ・・・。どうすれば・・・。


「い~そ~ら!」

「・・市川さん・・。」

「おうおうっ!もう本番だぞ!大丈夫か?」

「大丈夫・・・じゃないです・・。」

「だろうな!依天の母ちゃんと爺ちゃん来てたな!それに、塾の友達も!」

「はい・・成功・・しないかもしれません。」

「んん?別にいいんじゃね?神楽ってさ、神様に皆の願いを届けるために踊るじゃん?それってさ、思いを伝えたいって思うことが重要じゃん?その踊りで何かを伝えようとか、伝えたいとかなんでもいいんだけど・・そういう気持ちを持つことが大事であってさ、成功するかどうかは重要じゃないんじゃね?だって、神様に伝わったかどうか誰もわかんねーじゃんか。依天はさ・・・ばっちゃに言われて踊るんだろ?だから、誰かの思いとかは無いかもだけど頑張りたいっていう気持ちで十分だと俺は思うけどな。まぁ・・お前のやりたいように踊ってみろよ。」


市川さんは、白い歯を見せて笑ってくれた。

第11章 神楽本番


確かに・・自分は・・伝えたい思いがない・・。

けれども、商店街の人達はこのお祭りに全力を注いでいたことは知っている。

市川さんたちは、忙しいのに時間を作って練習に付き合ってくれた。

こっそりとッライブに行く工作もしてくれた。

林君と小倉君は・・・自分が知らない世界を教えてくれた。

・・・・・・。

・・・・ある。

色んな人の力で、自分はここに立てている。

神様に・・・叶えて欲しい願いは・・お礼がしたい・・。

自分なんかに・・。

神楽という大きな役目を与えてくれた。

新しいものに触れさせてくれた。

新しい友達。

自分は、そう思っているけれども・・・。

だから、仲直りして欲しい。

友達だから・・・。

思いの形が違っても・・・。

それでも・・・。

・・・・。

・・・・・・・。

熱い・・・。

胸が・・なんだか・・・。

手も。

顔も。

熱い・・。

目も・・・なんだか・・・。

体の全部が熱くなってきた。

熱くて・・熱くてたまらないのに・・・。


・・この気持ちは・・なんと呼べば・・。

この・・熱い色は・・温度は・・何て言う名前だっただろうか。



神楽の舞台が近づいてくる。

いやっ・・自分が近づいている事はわかっているのだけれども・・。

舞台へと向かう廊下の板が軋み出す。

板の香りが鼻腔まで届いて来た・・。

ここは、こんな香りがする場所だっただろうか・・?

聞こえてくる音は、たくさんあるはずなのに・・・。

お祭りの喧騒があふれて騒がしいはず・・・。

それなのにとても静かだ・・・。

何も聞こえない・・・。

多くの人で溢れている境内はいつもと違う空気が漂っているはずなのに・・・。

から揚げお腹が空く匂いとタコ焼きに掛かっているソースの香ばしい匂いで溢れているはずなのに・・。

朝起きた時の様な・・凛とした空気が自分を包んでいる。

・・・。

そうだ・・これが・・この空気が本来のこの神社の空気だ・・・。

厳かで・・凛としていて背筋が伸びるような・・・。

そんな空気が支配している。

神楽の衣装が動きにくいはずなのに体が軽い。

舞台の定位置に着く。

神楽歌が流れだし、音が自分の手足を支配していって勝手動いてしまう。

手に持った鈴が、上品の音を奏で始めて全ての音を塗り替えていく。

逆に持った榊をゆっくり揺れでして自分の周りを・・会場を清めていく。

これが・・・神楽・・。

きっと・・自分より前に舞った人もこんな感じだったのかもしれない・・。

視線だけで会場全体を見る。

スポットライトの光で何も見えない。

ただ・・白い光が広がっていて、自分がどこに居るのかを忘れさせる。

もしかしたら・・。

もしかしたらこの光が・・神様かもしれない・・。

・・・・。

神様・・・・。

どうか・・・林君達が仲直りできますように。

2人の思いの形が違ってもきっと2人は・・お互いが必要だから・・。

神様・・・・。・・

自分は・・・皆にお礼がしたいです。

ここに・・立たせてくれた人たちに・・。

神様・・・・・。

神様・・・どうか・・どうか・・応えてください。

ここに居る・・全ての人の思いに・・・。

いまだけ・・。

今回だけ・・・。

聞いてください。

・・・・。

どうか・・・・この願いが届きますように。

どうか・・・・この祭りに関わった人達、自分に言葉をくれた人達の願いが叶いますように。

お願いします。・・お願いします。

この舞いが・・・皆の気持ちを届けてくれますように・・・。

この舞いで・・誰かに・・勇気を与えられますように・・・。

きっかけを作れますように・・・次・・会えた時・・幸せでありますように・・。



「すごかったね・・藤城さん。」

「・・あぁ・・。」

「あれが・・神楽っていうものなんだね・・全然ロボットじゃなかった。俺たち藤城さんに謝らないとね。」

「・・・・・あぁ・・・。」

「・・・・亮二・・ごめん・・相談しなくて・・。」

「・・・・・。」

「まだ、怒っている?・・・よね。」

「・・・・・当たり前だろ。」

「ごめん・・・。」

「なんで・・相談しなかったんだよ。」

「えっと・・その・・どう伝えればいいのかな分からなくて・・。」

「普通に伝えれば良いじゃねーか・・。」

「・・そうなんだけど。何だか・・色んな事を考えちゃって・・。」

「大学・・行くからバンドやめんのかよ・・・続けられないものなのかよ・・。」

「俺さ・・音楽プロデューサーになりたいんだ・・・それで・・いつか・・会社を興したいと思ってる。・・・だから・・それに進めるような学部に行きたい。専門学校でもいいんだけど・・学歴は・・あった方がいいだろ?」

「それ・・・俺に相談できない内容なのかよ・・。俺は・・そんなに信用できないのかよ・・・。」

「違う!それは、絶対違う!亮二の事は・・・親友だと・・思ってる!ずっと!なにがあっても!ずっと・・・親友だと・・。」

「じゃあ!なんで!相談しない!なんで、バンド辞めるっていう!」

「・・・・。勇気が・・出なかった。決意が・・揺らぎそうで・・。」

「なんだよ!勇気って!普通に言えばいいだろ!親友なんだから!」

「・・・そうだな。そうすれば良かったな。」

「んで・・・俺はその会社の重役なんだろうな・・・」

「・・あぁ!もちろんだ!亮二はその会社の看板だ!」

「なんだよ!看板って!」


ごめん・・藤城さん・・まだ・・まだ言えないや・・。

まだ・・・このままで・・この関係のままでいたい・・・。

もし・・亮二のそばに・・・いられなくなるその時まで・・・。

まだ・・いいよね?

この気持ちは・・俺だけのものでいいよね・・。

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