第13話 緊張のライブハウス ~ありがとう~


今日は林君達のライブの日。

朝から少し緊張してしまう。

自分は、関係ないはずなのだが、ライブハウスなんて一生縁が無さそうな場所に行くことに・・・。


因みに母には、市川さんが「受験勉強と祭りの準備」と説得てくれたみたい。

祭りの準備には、多くの商店街の人達が参加している場に、藤城病院のお嬢さんが手伝ってくれている事が評判だと言ったらしい。

その言葉に母が上機嫌になった。

「頑張って、お手伝いするのよ」と念押された。


市川さんの言っている事は、ほとんどその通りだけれども、夜にライブに行くことは話していない。

朝から昼までは、商店街の皆さんの手伝いと、通常の巫女の業務。



境内がお祭りの準備で賑わっている中で、参拝する人なんていない。

というよりも、何時も居ないのが正しい。

最近、参拝してくれたのは、林君ぐらいだ・・・。

良いのか・・・。

悪いのか・・・・・・。

良くはないか・・・・・。



昼からは、神楽の練習をした。

何度も聞いた神楽の重厚な音。

すり足で、動く時の音。

両手で揺らす鈴の音。


神楽には、多くの音が存在する。

その音が何重にも重なって象られていく。

この音の重なりが音楽。

・・・・。

・・・・・・。

では、無いらしい・・・。


考えてみた、自分なりの音楽の解釈。

御婆さんと市川さん、それにたまたま居合わせた町内会青年団長の小野田さん。

御婆さんは、眼を瞑ったまま。

市川さんは、苦笑い。

小野田さんは、笑顔で手を叩いてくれている。


「依天ちゃん凄いね。神楽初めての最近なのにこんなに完璧で!素人にしては凄いと思うよ!」

小野田さんのいつもより大きめな声で、褒めてくれた。

・・・・。

「ありがとうございます。」と小野田さんに返した。

・・・。

・・・・・・。

素人・・・。

確かに・・・、素人だけれども・・。

本当にこれで良いのか・・。

やっぱり・・・。

勉強が足りない・・・。




林君達のライブの前に少し暗いものが、胸に溜まっていく。

どうすれば良いのだろうか・・・。



「おーーい!巫女!」

巫女?この神社に巫女は自分1人だと思い出し、振り向くと、林君達が立っていた。


「巫女・・・。そんな恰好で行くわけ?」

「藤城さん、着替えた方がいいよ?」

・・・。

・・・・・。

2人の言葉で、自分は神楽の練習着として着ている、高校のジャージを着ていた。

「・・・あっ・・すいません。着替えてきます。」

昼の練習の時からずっと、考え込んでいた様だ。

恥ずかしい・・。


いつもの、TシャツとパーカーにGパンに着替える。

待たせている2人の元に急いでいく。


自分の恰好を見て呆れる小倉君は、深いため息をついた。

「まじか・・・。俺らのライブはコンビニじゃねーんだけど・・。」

「えっ・・・。すみません。動きやすい恰好の方がいいと思って・・・。」

「別に・・・。」

「おっおい!亮二!」

不機嫌そうな小倉君を止める様に林君が慌てていた。

・・・。

・・・・・。

やっぱり、TシャツのGパンじゃ駄目だったらしい・・・。



ライブハウス、MUSIC of CRIMEは、最寄り駅から3駅都会の方へいく。

林君と小倉君が、音楽や学校の出来事を楽し気に話している。

そんな2人の後ろ姿を見ながら着いて行く。


本当に、2人は仲がいいみたいだ。

自分には、こんなに仲の良かった人が居ただろうか・・・。

こんなに、屈託のない笑顔で笑いあえる人は居なかった・・・・。

中学生の時も、高校生の時も、フリータの時もそんな人は居なかった・・。


駅から、5分程歩いた場所にライブハウスがあった。

開演時間まで、まで2時間以上あるというのに、ライブハウス会場へ続く入口の前には人が沢山立っていた。

ライブハウスは、4階建てのビルの地下にあるみたい。

・・・・・。

・・・・・・。

一生縁のない場所。

絶対入る事の無い場所、いや・・・入りたく無い場所かも知れない。

顔見知りの林君と小倉君が居ても心もとない色が肺に広がっていく・・・。

大丈夫だろうか・・・。

自分みないなのが入って・・・。

入口に並んでいる子達が視界に入る。

やっぱり、この服装は間違いだった事が証明されてしまった。

・・・・。

・・・・・・・。

帰りたい。


「・・・さん?・・・ょうさん?・・・藤城さん!」


自分は、気が付かない間に2人と離れた場所に立っていたらしい。

心配そうに覗き込んでくる林君と、ライブハウス前でこちらを見ている小倉君が視界に入る。


「大丈夫?もしかして、疲れちゃった?ごめんね?神社から結構遠かったでしょ?それに・・・人の多いところは苦手そうだもんね?」

「・・・・・えっ・・と・・なんだか場違いな気がしてしまって・・・。」

正直に思った事を言ってみる。

「・・・ははっ!確かにTシャツとGパンの人はあんまり居ないかな!でも、それしかなかったんでしょ?そこまで気にしなくていいんじゃないかな。」

フォローなんだろうか・・・。

「そう・・・ですね。あの・・チケット代・・本当に払わなくていいのですか?他のお客さんは、払って入るみたいですし。」

「まぁ!普通は、払うよね!」

「・・じゃあ!」

急いで、鞄の中に財布を探す。

「でもさ。俺たちが、藤城さんに聴いてほしくて来てもらったんだし。それに、うちのボーカルの命令だし?気にしなくて良いよ。」

「・・・でも。」

「おい!何してんだよ!早く、入るぞ!」

少し、怒ったような顔をした小倉君が、林君の腕を引っ張っていた。

話に夢中で、小倉君がこちらに向かっている事に気が付かなかったようだ。


「はい。はい。分かっているよ!藤城さんもいこ?」

「あぁ!また、はい、はいって言いやがったな!俺は、子供じゃね!」

「はい。はい。」

機嫌が良さそうな林君と、そんな林君に文句を言っている小倉君。

でも、2人とも楽しそうに笑っている。

そんな風に見えているのは間違っていないかも知れない。


初めて見る、ライブハウスのネオンが、2人の姿を照らす。

ネオンの強い光に向かう2人の背中は、光が当たっていないのに輝いている様にみえた。

・・・。

・・・・あぁ。楽しみだ。

・・・・どんな場所で、どんな曲を2人は演奏するのだろうか。

・・・・・本当に神楽のヒントになるのだろうか。

・・・・・・初めての場所でどうしたらいいのかわからないのに。


この色は、嫌いじゃない。

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