第174話 欲しかったものは

流石に二年のスタメンともなると上手いものだ。他がヘボかったのと運に助けられた要素はあったけどギリギリで格好がついたのはよかった。


「あっくん!勝ったね!」


クラスメイト達に揉みくちゃにされてから何とか抜け出すと、琥珀が近づいてきてそう嬉しそうに言った。


「約束したでしょ。次は俺の番ってね」

「えへへ……信じてたよ」


その笑顔だけで俺は何もかも報われた気がした。うん、この琥珀の笑顔が見たかったんだ。


「次、サッカーでしょ?大丈夫?」

「問題ないよ。軽い準備運動みたいなものだし」


カッコつけてそう言うと、琥珀からキラキラした視線が来る。この目には勝てないなぁ。


「琥珀。タオル渡すんじゃなかったの?」

「あ。そうだった!ありがとう、黒華ちゃん」


そう言って琥珀はタオルを渡そうとして……さっきまで応援してた場所に置いてきたのに気付いて取りに行った。ドジっ子でかわゆす。


「んで?最後のはまぐれ?」

「さてね。運には助けられたが」


あの瞬間に何故か行ける気がしたとは言えまい。信じられないだろうし、信じさせる理由もなし。


「どっちでもいいけど。下手な杭は打たれるよ」

「俺がそれを考えてないとでも?」

「でしょうね。ムカつく」


ははは。まあ、実際現役スタメンの先輩にクラスマッチで勝って遺恨を残すと後々面倒の種にはなり得るかもしれない。だが、向こうには色んな言い訳もある。クラスマッチだから、味方がヘボかったから、相手の運勝ち。そして陰湿なことをして来ないタイプなのも確認済み。相手を選んでやってるつもりだ。アレの取り巻きがなにかする可能性もあるが、そちらも問題ない。むしろ仲間内でネタにして笑うくらいには陽キャだし。何かあっても琥珀を守れるようにはしてるけど、不測の事態は付き物。用心はするに限るね。


「あっくん、お待たせ〜」


急いできたのか少し疲れ気味な琥珀たんにタオルを渡される。なんでだろうね。うちのタオルで一緒なのに琥珀のは凄く良い匂いがするんだよね。フローラルというか落ち着くというか。これが琥珀の癒し力か。流石俺の琥珀たそだな!


「琥珀も少し汗かいてるね」


ふと、見ると少しだけ汗が浮かんでいた。


「大丈夫だよ〜」

「風邪ひくかもだし、気をつけないとね」


そう言って、琥珀のタオルの使ってないところで汗を拭う。


「えへへ……逆になっちゃったね」

「いいんだよ。琥珀の気持ちが嬉しいから」


そう言うと照れながら微笑む琥珀たん。可愛すぎ!これだけで頑張った甲斐があったというものだよ。いや、マジで。

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