02.

 別に、示し合わせたわけでも、意識していたわけでもない。


 ただ、同じ時間帯に走って、同じ時間帯に通勤している。それだけ。いつも隣にいて、声をかけるわけでもないけど、一緒に走っていた。


 それだけで、繋がるものはあったと、思う。


 何も言わなくても。お互いのことを知らなくても。隣で走って。隣で歩けば。通じ合える。片方がペースを落とせば前に出て風を作り。片方がペースを上げればついていって張り合う。そういう、関係。


 友人や恋人よりも、ある意味濃密な関係だったかもしれない。お互いの身体を。心の状態を。誰よりも分かっている。そして、同じ景色を、隣で見ていた。


 ただ、いなくなれば、それっきりの関係。吹けば飛ぶような、そんな薄いものだったのかとも、思う。


 名前も知らない女性。


「忘れよう」


 必要のない記憶だった。これからも、自分は走り続ける。彼女がいなくても。自分の日々は、普通の生活は、続く。

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