とある父娘の旅

須川  庚

プロローグ

 ショーン大陸。


 それは翼を広げた二羽の鳥が連なるような形をしている世界最大の大陸だ。

 世界最大の大陸であり、この大陸には約九割の国々が存在する。


 他は小さな島国、特に極東と呼ばれる飛び地の地域も大陸とは近くに位置している。島国は独自の文化と言葉を持つので、それを目当てに観光客が訪れている。

 ショーン大陸は東西南北の国々は様々な文化や自然があり、様々な人種や民族が存在する。


 しかし、その文化や自然などを壊すような出来事が起きた。


 それはロジェ公国と軍事国家であるレスティア連邦が率いる北側諸国が、ローマン帝国とエリン=ジュネット王国を含む南側諸国に侵攻をきっかけに勃発した第二次ショーン大陸戦争だ。

 この戦争で多くの兵士や一般人が犠牲になり、その足した数は大陸の三分の一以上の人数だと言われている。


 この戦争は十三年の年月を経て終了したが、各国の士官学校は卒業を二年繰り下げ、一刻も早く戦力を確保したりしていたこともある。


 そして、二月二十二日に北側諸国が降参の白旗を掲げ、この時点でその長かった戦争は南側諸国が勝利した。

 そして平和と友好条約を締結した翌年の八月二十日は平和の日として、ショーン大陸の祝日になっている。





 エリン=ジュネット王国のエリン州の墓地に一人の若い女性とその父親と思われる壮年の男性が隣に立っている。

 若い女性は美しい黒髪に琥珀がはまったような美しい瞳はある墓石に視線が注がれていた。

 その女性の父親らしき隣に立つ男性は花束を抱えて、墓石の文字を愛しく撫でている。


 ハナと話しかけた方にある墓石には、ハナ・サクラノミヤ=アンダーソンと刻印されている。

 どうやらこの二人はこの墓に眠る女性の家族のようだ。


「ハナ。アンとやって来たよ」

「お母さん。久しぶりだね、今年成人したんだよ!」


 黒髪の若い女性――アンはそっと母と呼び掛けた墓石の前に父から手渡された花束を置いている。

 墓石に刻まれた名前はアンの母親の名前で、陸軍の魔法特殊部隊に所属する軍人だったという。

 自分が三歳の冬に戦場で戦死しているので、母親に関する記憶もしだいに無くなりかけている。

 あれから十五年の月日が流れて、彼女は今年の誕生日で成人年齢である十八歳を迎えたのだ。


「ハナ。また来るよ。アン、そろそろ旅行の準備をしよう。今年はロジェ公国の方に行こうか」

「うん。お父さん、お母さんが亡くなった場所に行きたいの」


 彼女は意思の強い瞳で父を見つめているのが見ていた。

 アンの父親はウィリアム・ヘンリー・アンダーソン。

 茶髪に琥珀色の瞳をしているが、母親似のアンは父親である彼に全く似ていない。


 あの戦争での戦功が評価されて昇進しているが、本人は少しだけ悔しそうな表情を浮かべていた。

 その理由は戦争が終結するきっかけとなった作戦で部下であり妻のハナを亡くしていたからだったのだ。


 そして、アンとウィリアムは墓地をあとにした。

 二人はこれから休暇を利用して二人だけの家族旅行に向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る