第311話 現実感

 学校に着くと、俺と真奈美はいつも通りに前と後ろの席に座る。


 ちらりと隣を見ると、端井がいて、さらに、その前の席には、外川が座っている。


「おはようございます」


「……あぁ。おはよう」


 端井が挨拶してきたので、俺はそれに返した。外川の方は……反応はなかった。


「お二人、一緒に来たんですか?」


 と、端井が普通に質問してくる。俺は少し答えに困ってしまった。


「うん。そうだよ」


 代わりの真奈美は時間を置くこともなく、簡単にそう答える。


「いいですね」


 端井は笑顔でそう言った。真奈美も満足そうな顔をする。


 ……俺が意識しすぎなのだろうか。いや、もう別に俺と真奈美は付き合っているわけだし……二人で登校してくるのも普通のことなのだろう。


 俺は席に座ると、真奈美が俺の方に顔を向けてくる。


「今、ちょっと答えに詰まったでしょ?」


 ニヤニヤしながら、真奈美はそう言う。


「……悪かったよ」


「別に。湊君のそういうところ、私、好きだから」


 ……またしてもコイツは……なぜ、平然と直球で俺に好意をぶつけてくるのだろう。逆に俺は俺で益々恥ずかしくなってきてしまう。


 と、そんなことをしていると、先生が教室に入ってきて授業が始まってしまった。


 それからは……特に何もなかった。俺はふと授業中、目の前の席の真奈美のことを見る。


 綺麗で黒い髪、白い肌、整った顔立ち……いや、やっぱりこんな子が俺と付き合っているって……なんか、信じられないな。


 そもそも、俺の方から真奈美にきちんと思いを伝えてないんだよな……やっぱりそういう点で未だに現実感がないというか……付き合っていることに自信が持てないのだろうか?


 そんなことを考えていると、いつのまにかチャイムが鳴ってしまった。昼休みだった。


「湊君」


 と、真奈美が待ち構えていたかのように、俺の方に顔を向けてきた。


「……なんだ?」


 俺が聞くと、真奈美は嬉しそうに、ピンク色の布に包まれた箱状のものを俺に差し出してくる。


「これ、今日も食べてくれるよね?」


 嬉しそうにそう言ってくる真奈美。


 そう、真奈美は修学旅行から帰ってきてからは、ずっと俺に弁当を作ってきてくれている。


「……なんだか、お前に悪い気がするんだが」


「なんで? 私が好きでやっていることだから、湊君は遠慮しなくていいんだよ」


 ……そう言われてもうやはりどうにも悪い気はしてしまう。


 というよりは……こんなにも色々としてもらえると……なんだか、とんでもないことが、後に起こりそうで、どうにも俺は嫌な予感がするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る