第272話 彼女の望み
「……で、お前は俺にどうしてほしいんだ」
外川がヤバい奴だということはわかったが、言っていることがイマイチわからないため、俺は直球で聞いてみた。
「そりゃあ~、僕は君に元に戻って欲しいと思っているよ」
「……元に戻る?」
「そうだよ~。僕と同じようにクラスの端っこにいて、窓の外を眺めて、友達とも喋らずに無為な学生生活を過ごしていてほしいと思っているってことだよ~」
「……お前は、俺のことが嫌いなのか?」
俺がそう言うと外川は目を丸くする。
「う~ん……嫌いってわけじゃないかなぁ~。単純にムカつくっていうかなぁ~」
「……それ、やっぱり嫌いって意味じゃないのか?」
「いや~、でも嫌いだったら、わざわざ修学旅行同じグループに入ろうとしないでしょ~?」
……やっぱり外川が言いたいことがいまいちわからない。俺はそれ以上外川を理解するのはやめることにした。
「……わかった。いや、正確にはよくわからないが、お前がどういう奴かはわかった。だけど、俺だって、別に好きで今こういう状況にいるわけじゃないんだ」
「じゃあ、誰のせいでこうなっているの~?」
外川に言われて、俺は思わず言葉に詰まる。
誰のせい……今、こうなったのは……思い返せば、俺の前の席に座っていた、あの人物と話し始めたことがきっかけなわけで……
「もちろん、前野さんのせいだよね~?」
そのことは外川もわかっていたようで、見透かしたようにそう言った。
「……だとすれば、何だって言うんだ?」
「いやぁ~、君のことは嫌いじゃないけどさ~、前野さんは僕、好きじゃないんだよね~。いつも素っ気ない感じで、自分は恋愛とかに興味ないですよ~、って感じだしているのに……めちゃくちゃ後田くんにアプローチかけているんでしょ~?」
俺は黙ってしまった。しかし、無言であることを、外川は肯定であると捉えたらしい。
「だからさぁ~、前野さんに、失恋してほしいんだよね~」
「……は? どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ~。だって、失恋したらきっと前野さん落ち込むでしょ~? その顔を想像しただけで……フフッ。楽しくなってきちゃうよね~」
コイツは……性格が相当悪いということだけはわかる。
しかし、前野が失恋するって……それは、つまり――
「まぁ、簡単にいえば、後田君が前野さんと以外と付き合うことになれば、前野さんの失恋ってことになるよね~?」
……いちいち人の考えを見透かしているようで腹の立つ奴である。
「……俺が、前野以外の人と付き合うって、お前は思っているのか?」
「うん。だって、君のこと、好きな人がいるわけだし~……そうだよね~? 端井さん!」
そう言って、外川はいきなり振り返る。俺も外川が声をかけた方向を見る。
端井? なんで、端井の名前をいきなり出してきたんだ……?
と、思っていると、恥ずかしそうにしながら、ゆっくりと、電信柱の影から、端井が姿を表したのだった。
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