第270話 許可

「……なんで?」


 俺は思わず聞き返してしまった。と、外川もそう聞かれて面食らったようで、目を丸くして俺のことを見ている。


「なんで、って……帰りたいなぁ~、って思ったからだけど、ダメ?」


 俺は外川の問いかけには答えずに、端井と前野のことを見る。


 端井の方は……明らかに不機嫌そうな顔で俺のことを見ている。当然「ダメ」と答えるのだよな? と俺に言いたげな顔だった。


 それから、前野の方を見ようとした、その矢先だった。


「いいんじゃない?」


 と、前野が先にそう言った。


 俺も端井も同時に前野のことを見てしまう。


「だって、同じグループになるんでしょ? 後田君も外川さんのこと知りたいでしょ?」


「……え、あ、いや……前野、俺は――」


「私は帰るから。じゃあね」


 笑顔で前野は教室から出ていってしまった。あの笑顔……明らかに怒っている時の前野の顔だった。


「いやぁ~、許可、出たから一緒に帰れるねぇ~」


 ニヤニヤしながら外川が俺に話しかけてくる。俺は思わずキッと外川のことを睨みつけてしまった。


「あはは~。そんな怒らないでよ~。これくらいで前野さんは君のこと嫌いになったりしないって~」


「……お前、それどういう意味だ?」


 俺の質問に答えずに、外川は端井の方を見る。


「じゃ、前野さんから許可が降りたから僕は後田君と一緒に帰るね~」


「なっ……わ、私がダメって言ったらどうなるんですか!?」


 と、端井が少し慌てた様子で外川に詰め寄る。しかし、外川は端井に興味はないようである。


「ん~? 別に。君の許可なんていらないし~」


「なっ……なんなんですか!? アナタは!」


 怒る端井を他所に、外川はいきなり俺の腕を掴む。


「じゃ、帰ろうか~」


「……いや、お前、俺はまだ――」


 俺が最後まで言い終わらないうちに、半ば強引に俺は外川に教室の外へ連れ出されてしまったのだった。

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