第243話 鎌をかける

「あの……後田さん」


 しばらくしてから、端井の声が聞こえてきた。


 俺はゆっくりと振り返る。


「……端井。どうして……?」


 俺がそう訊ねると、端井はバツが悪そうに俯いてしまう。


「その……後田さんと横山さんのことが気になって……それで……」


「……そうか。悪かったな、心配させて」


 俺がそう言うと端井は何か言いたそうにしていたが、そのまま黙ってしまった。


「……話、どこまで聞いてた?」


 俺はどうするか迷ったが、端井に聞いてみることにした。端井は少し驚いたような顔で俺のことを見る。


「話、ですか?」


「……そうだ。俺と横山が話していたこと、聞いていたか?」


 端井はしばらく困惑したような顔をしていたが、小さく首を横に振る。


「いえ……聞いていません」


「……そうか。それなら……いいんだ」


 ……横山が端井になぜか厳しい評価をしていたこと、そして、俺が……前野に告白するということになってしまったこと……それらを聞いていたかが問題だった。


 まぁ、ファミレスを出てからはそこまで詳しく話していないし、聞いているわけもないか。


 なんだか、端井に鎌をかけるような真似してしまって、自分でも嫌な気分になった。


「……えっと、俺帰るけど、端井は?」


「あ……え、えぇ。私も……帰ります」


「……じゃあ、途中まで一緒に帰るか?」


 俺がそう言うと端井は少し安心したように、にへっとした笑顔を浮かべる。


「はい……一緒に帰りましょう」


 結局、一度は断ったというのに、俺と端井は一緒に帰ることになったのであった。

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