第231話 もう大丈夫

 俺のせい、と言われて俺は困ってしまう。


 どうしようもないので、俺は前野の方を見る。前野はなぜか笑顔で俺のことを見ている。


「……え、えっと……俺が悪いのか?」


 思わずそう横山に聞いてしまう。すると……何故か横山も嬉しそうに笑っていた。


 ……なんなんだ? 俺は狐につままれたような気分になる。


「あはは……ごめん。別に意地悪しているわけじゃないよ。それに……後田君のせいなんかじゃないしね」


 そう言って横山は少し寂しげな顔をする。俺はどうして横山がそんな表情をするのかわからなかった。


「愛留ちゃん」


 と、前野が横山のことを呼ぶ。


「私は、愛留ちゃんに学校に来てほしいよ。でも、愛留ちゃんの気持ちが一番大事だと思う」


 前野の言葉に横山はしばらく考え込んでいた。しばらく時間が経ったあとで、横山はパシンと頬を叩く。


「よし! 分かった!」


 と、なぜか急に元気に横山は頷いている。


「……そうだよね! こんなのウチらしくないし……っていっても、どんな感じなのがウチらしいのかわかんないけど……」


 横山がそう言うと前野はニッコリと微笑む。


「自分の気持ちに素直になるのが、愛留ちゃんらしいじゃない?」


 前野にそう言われ横山は恥ずかしそうに微笑んだ。それを見て、前野は立ち上がる。


「もう愛留ちゃん、大丈夫だから。行こう、後田君」


「……え? ほ、本当に大丈夫なのか?」


 俺が聞くと、横山は満面の笑みで俺を見る。


「うん! ごめんね! でも……私、もう自分に嘘はつかない。だから、明日から学校も行くよ」


 ……どういうことかよくわからなかったが、確かに最初に会ったときよりかは晴れやかな表情になっている。


「……分かった。じゃあ、また、学校でな」


 俺がそう言うと横山は笑顔で頷いた。こうして、俺たちは横山の家を後にしたのだった。

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