第228話 言うべきではなかったこと?

 横山の家に近づいていくにつれて段々と不安になってきてしまった。


 よく考えてみれば、横山は俺一人に来いと言っていたのだ。それなのに……前野と一緒に来て良かったのだろうか?


「ねぇ」


 そんなことを考えながら歩いていると、前野が俺に話しかけてきた。


「……なんだ?」


「愛留ちゃんに会うのは久しぶりだから、楽しみだね」


 前野は心からそう言っているようだった。それはそうだ。横山と前野は俺から見ても仲良くなっているように見えたし……。


 だからこそ、横山が俺に言ってきたことを、前野に言ったほうがいい気がしてきた。むしろ、言わなければいけない気がする。


「……あのさ、前野」


「ん? 何?」


「……いや……横山が俺に電話してきた時……中原には来ないでほしいってはっきり言っていたんだが……その……俺に、一人で来てほしいって言ってきたんだよ」


 俺はなんとかそう言い切った。前野は特に反応することなく、俺のことを見ている。


「ふぅん。そうなんだ」


 前野はそれだけしか言わなかった。特にショックを受けたわけでも、怒っているようにも見えなかった。


「……その、こんなこと、言わない方が良かったとは思うんだけど……」


「ん? そう? むしろ、言ってくれて良かったよ。そっか……うん。じゃあ、尚更、私が行かないと駄目だよね」


「……そうなのか?」


「うん。ほら、行こう」


 前野は俺に微笑んでいるが……どうにも先ほどとは違い、心から笑っているようには見えない。


 どことなく、怒っているというか……いや、正確には、何かを改めて覚悟したというか……。


 そして、俺はやはり、もしかすると、さっきのことは言うべきではなかったことだったのではないかと思ってしまうのであった。

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