第206話 嵐

「まぁまぁ。実行委員をやるわけじゃないからさ、よろしく頼むよ」


 先生は笑顔でそう言う。横山……可愛そうなことだ。


 しかし、俺にはどうすることもできない。なんとか頑張ってもらうしか――


「えっと、あと一人は……後田はどうかな?」


 ……は?


 一瞬、先生が何を言ったのか理解できなかった。


「後田? 聞いているか?」


 先生の声がもう一度聞こえて、俺は我に返る。そして、ゆっくりと先生のことを見た。


「……え? お、俺ですか?」


「うん。大丈夫、だよね?」


 横山に向けたのと同じ笑顔を先生が俺に向ける。


 その時、俺はようやく、嵐が自分に降り掛かってきて、自分は、そのど真ん中に引きずり出されてしまったことを理解する。


 俺はゆっくりと、横山の方を見る。横山が……こちらを見ている。


 まるで、砂漠で遭難している時に、知り合いにあったかのような……そんな安堵しているようにも見える目だった。


「先生」


 と、いきなり俺の前方の席の人間の手が上がった。


「ん? 前野、どうした?」


 前野が……なぜかいきなり手をあげていた。


「実行係って、人数の定員、決まっていないですよね?」


「え? あ、あぁ……あ! もしかして、前野も立候補か?」


「はい」


 前野がはっきりと、しっかりとした声でそう言った。


 俺は唖然とするばかりで目の前の前野の行動を見ていることしかできなかった。


「よし! じゃあ、ウチのクラスの実行係は、後田と前野と横山の三人だな! いやぁ~、決まって良かった!」


 先生が安堵すると同時に、教室全体にも安堵の雰囲気が溢れる。


 無論、俺はそんな雰囲気を楽しむいことはできなかった。


 と、いきなり前野が振り返って、俺に微笑む。


「後田君、頑張ろうね」


 ……どうやら、俺は嵐の中に巻き込まれてしまったようであった。

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