第166話 真剣

 しばらくの間、沈黙が流れる。


 俺も前野も、横山も動けなかった。


 頭の中ではこれが遊びで、前野がふざけてその質問をしてきたことはわかっている。


 わかってはいるのだが……返事ができない。


 あまりにも前野の表情は真剣だった。いや、それも含めて遊んでいるのかもしれないが。


 だが、ここで何も言わなければ、永遠にこの遊びは終わらない。


 つまり……俺が返事をしなければいけないのだ。


 俺が「はい」と答えようと、なんとか先を続けようとした……その時だった。


「あ! そ、外! 外、見て!」


 そう言っていきなり大きな声をあげたのは……横山だった。


 そう言われて俺と前野も同時に外を見る。


 すでに先程までの暴風はどこかに行ってしまったようで、外はすっかり晴れていた。


「あ、あはは……良かったね! 意外と早く晴れて!」


「……そうだな」


「え、えっと……ウチ、また水着に着替えてくるから!」


 そう言って、半ば逃げ出すように、横山はリビングから飛び出していってしまった。


 俺と前野だけがその場に残される。


「……さっきの、遊び、だったんだよな?」


 俺がなんとかそう訊ねると、前野は少し寂しそうに俺から視線を背ける。


「……さぁ。どうかな」


 それだけ言い残して、前野も俺を置いて部屋を出ていってしまった。


 ……どうかなって……一体どういう意味なんだ。

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