第165話 質問

「じゃあ、聞くね」


 前野がそう言って、どうやら遊びは始まったようであった。俺は思わず身構えてしまう。


「後田君は、人と話すのが好き?」


「……はい」


 最初の質問は特におかしなものではなかった。俺は落ち着いて返答する。


「じゃあ、私と話すのは好き?」


「……はい」


「横山さんとは?」


「……はい」


 と、そう言ってから前野は少し間を置いてから、先を続ける。


「でも、一番話していて楽しいのは、私でしょ?」


 そう言われて俺は思わず返答に詰まってしまう。横山も少し驚いている。


「……は、はい」


「フフッ。ありがとう」


「……おい。俺はあくまでこの遊びだから『はい』って言ったんだぞ?」


「わかっているって。遊びだから」


 そう言う前野はあながちふざけているようにも見えなかった。


「じゃあ、次の質問をするね。そうだね……後田君は、好きな人がいるよね?」


 ……来てほしくなかった質問だった。いや、こういう遊びなら絶対してくる質問だと思うが。


 横山も興味津々に俺のことを見ている。俺は観念したかのようにうなずく。


「……はい」


 と、俺が返事をすると、なぜか前野は少し緊張したような面持ちで俺のことを見ていた。


「え……ま、真奈美?」


 沈黙が長いので、横山が不安そうに訊ねる。と、前野は重々しく先を続ける。


「それって……私?」


 前野はその質問を間違いなく、まぎれもなく、たしかに俺にしたのだった。

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