第140話 不要

「真治……アンタ、なんでここに……」


 横山もひどく驚いているが……俺ももちろん驚いていた。


 中原は何も答えずに、チャラ男を睨みつけている。チャラ男は分が悪いと判断したのか、舌打ちをして去っていった。


「……はぁ。愛留。お前、何やってんだよ」


 中原は呆れ顔で横山を見る。


「な、何って……プールに来ているだけでしょ」


「だけ? なんで後田が一緒にいるんだよ」


 そう言って中原は俺を睨んでいる。これは……間違いなく、修羅場だな。


「関係ないでしょ! 後田君には泳ぎを教えてもらうために一緒に来てもらったの!」


「はぁ? 後田は別に水泳部じゃないだろ? 泳ぎなら俺に教わればいいじゃないか」


「アンタは教え方が下手すぎなの! 前に一回泳ぎを教えてくれって言った時も、まともに教えてくれなかったじゃん! その時、ウチがどうなったか覚えているわけ!?」


 ……修羅場かと思ったが、俺のことはそっちのけで、横山と中原が言い争っている。一体この状況はなんなのだろうか……。


「……覚えているって。溺れた時だろ?」


「え……そ、そうだけど……」


「……あの時は、悪かったよ。なんとか俺が助けられたから良かったけど……確かにお前に怖い思い、させたよな……」


 中原はそう言って横山に頭を下げる。横山は唖然としている。


 その時、俺は確信した。俺……今、この場所で、完全に不要な存在になったな、と。

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