第139話 失態
「彼女、暇している感じ? 俺と遊ばない?」
……あまりのことに、俺は唖然としてしまった。
まず、今現在、目の前でナンパが行われているという事実。それが現実には思えなかった。こんな市民プール施設で、ナンパしてくる人間が本当に実在するのかということに、俺は驚きすぎてしまった。
そして、何より、横山がナンパされているということも、驚きを加速させてしまった。
「は? なんでアンタと遊ばないといけないわけ?」
と、先程まで水に入るのを怖がっていた横山が、鋭い反応で返す。しかし、チャラ男もこの程度では引き下がらない。
「いいじゃん。っていうか、隣にいるのって……彼氏なの?」
そう言われて横山は一瞬反応に困って俺のことを見る。無論、俺も困った。
しかし、その一瞬の反応をチャラ男とは見逃さなかった。
「え? 彼氏じゃないの? じゃあ、俺と遊べるじゃん!」
……失態だった。今は間髪入れずに、彼氏のフリをすべきだった。横山は明らかに狼狽している。
このままでは――
「おい!」
と、またしても別の声が聞こえてきた。しかし、今度は聞き覚えのある声だった。
「え……な、なんで、アンタ……ここに……」
横山が驚いている。無論、俺も驚いてしまった。
やってきた人物は横山とチャラ男の間に入る。俺よりも、チャラ男よりも大きい彼は、明確な威圧感があった。
「俺の幼馴染に何か用?」
そう言ってチャラ男を威圧するのは……クラスメイトの中原なのであった。
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