第135話 幻想

「……暑い」


 プールまで行くまでの時間は……地獄だった。


 その日は死ぬほど暑い日だった。どうしてこんな暑い日に、わざわざ横山に泳ぎを教えなければいけないのだ……そんなことばかり考えていた。


 俺は横山との待ち合わせのプール施設まで向かっていた。俺の進むのと同じ方向に歩いていく人が何人もいる。この感じだと結構混んでいるんじゃないだろうか。


 かといって、ドタキャンすることもできず、俺は歩きたくない気持ちを必死に抑えてそのまま歩いていく。


 そして、ついにプール施設が見えてきた。入る前からそれなりに混んでいるのがなんとなくわかる。


「……こんな混んでて泳ぎの練習なんてできるのか?」


 俺はそう思いながら周囲を見回す。と、その時だった。


「あ! 後田君!」


 と、声が聞こえてそちらの方に目をやる。


 白いワンピースに、金髪……あまりにも目立つ格好で、横山は俺に手を振っていた。


 まるで夏の日の幻想のような格好で、横山は俺を待っていたのだ。


「……お前、その格好」


「え? へ、変かな……?」


「……いや、そういう格好するヤツ、ホントにいるんだなぁ、って思った」


 横山は不思議そうな首を傾げる。


 正直、こんな施設プールじゃなくて、ここが田舎だったら……いや、そもそも、横山が幼馴染だったら、もしこんな格好をしたら、きっと恋が始まるのだろう。


 だが、残念ながら、ここは田舎ではないし、横山は幼馴染ではない。ただのクラスメイトだ。


「えっと……じゃあ、プール、入ろうか?」


 ただ……白いワンピースを来た金髪美少女と一緒にプールに来たという事実には、流石に興奮せざるを得ないのであった。

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