第136話 ボリューム

「……やっぱり混んでいるな」


 プールにはかなりの人がやってきていた。


 この暑いのにどうしてみんなこんなところに来るのか……いや、むしろ、暑いからこそ、プールに来ているのか。


 俺はそんな無駄なことを考えながら、横山を待っていた。


 なぜか横山はやたら着替えに時間がかっていた。1人でこうして待っているのも手持ち無沙汰なので、早く来てほしいのだが……。


「お、お待たせ! 後田君……」


 やってきた横山を見て、俺は目を見開いてしまった。


 紫色のビキニタイプの水着……何より、横山が着痩せするタイプだったということが驚きだった。


 つまりは……胸部が、かなりボリュームがあったのである。


「……あ、あぁ……だ、大丈夫だったか?」


「え? 何が?」


 あまりのことに動揺してしまい、意味不明な質問をしてしまう。というか、目のやり場に困ってしまった。


「……いや、なんでもない……で、どうするんだ?」


「え? あー……さっそく、泳ぎ教えてもらおうかな?」


 横山は恥ずかしそうにそう言う。俺は視線のやり場に十分注意しながら、横山と並んで歩いた。


 比較的人が少ない場所を見つけ、そこでとりあえず、泳ぎの練習をすることにした。俺が先にプールに入る。


「……どうした?」


 と、なぜか横山がプールの中に入ろうとしない。というよりも……明らかに怖がっているようだった。


「……お前、もしかして……」


「あ、あはは……いきなりプールに入るのは……無理かも」


 ……なるほど。泳ぎを教えるよりも、まずそれよりも以前のこと……プールに入れるようになることから始めなければいけないようであった。

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