第129話 飲みかけ
「悪いね。奢ってもらっちゃって」
全く悪いと思っていないような感じで、前野は俺にそう言ってくる。適当なスポーツドリンクの入ったペットボトルを買ってきてやったが……なんとも敗北した気分になった。
「……別にいいから。飲めよ」
「後田君は飲まないの?」
「……俺はいいよ」
しばらくの間前野は俺のことを見ていた。さすがに少し俺に対して申し訳ないと思ったのだろうか?
「そう。じゃあ、飲むね」
……別にそこまで申し訳ないと思っていたわけでもないようだった。とにかく、前野はそのまま蓋を開けるとペットボトルに口をつける。
ゴクゴクと喉を鳴らしながら前野はドリンクを飲んでいる。その光景はなんというか……それこそ、スポーツドリンクのCMみたいで……ただ、飲んでいるだけだというのに綺麗に見えてしまった。
「……ふぅ。美味しい」
そして、半分程飲んだところで前野は一旦ペットボトルから口を離す。そして、俺の方を見てニヤリと微笑んだ。
「やっぱり、飲む?」
そう言って飲みかけのペットボトルを俺に差し出してくる。
否が応でも俺は、それが……先程まで前野が口をつけていたものだということを意識してしまった。
「……い、いらない……全部、飲んでいいから」
自分でも認識できる程に少し慌てて俺は反応してしまった。前野は俺が想定通りの反応してくれたのが嬉しかったのか、満足そうに残り半分を飲み干した。
……我ながら、なんというか……不甲斐ないと感じてしまうのであった。
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