第130話 不可能
「流石に、暑いね」
俺が奢った飲み物を飲み終わって、前野は小さく息を吐き出しながらそう言った。
近くではセミがけたたましくその存在感をアピールするかのように鳴きわめているし、すでにベンチに座って10分程経っている。
と、ふと、噴水の近くで男女のカップルがいるのが目についた。
二人は大学生くらいなのだろうか……手を絡ませて歩いている。いかにもカップルという感じだった。
……なんというか、ああいうのは俺には無理だろうなと実感してしまう。むしろ、どうしてあんなことができるのか不思議でならない。
周りから見られたら恥ずかしいことこの上ないだろうし、そもそも、あんなふうに手をつなぐということ自体……不可能な気がする。
「すごいね」
と、いきなり隣から前野の声が聞こえた。黙っているとばかり思っていたので、俺は少し驚いた。
「……何が?」
「いや、あんな感じのことを付き合っているっていうんだろうね」
……どうやら、前野も同じものを見ていたようである。俺は……なんだか気まずくなってしまった。
俺と前野の間にしばらくの間沈黙が流れる。と、いきなり前野が立ち上がった。
「後田君の家、今日誰もいないの?」
「……いや、まぁ、いないけど」
「じゃあ、行っていい?」
あまりにも唐突だった。予想外すぎる質問で俺は完全に困惑してしまった。
「……まぁ、別にいいけど」
「良かった。じゃあ、お邪魔します」
ニッコリと微笑む前野。そして、俺はあまりのことに流れでOKしてしまったことを後悔するのだった。
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