第86話 鈍感

「うわぁ……広い」


 初めて来た時の俺と同じような反応を、前野はしていた。


 実際、二回目の俺もリビングを見た感想は、ただただ、広いというものであった。


「え……そ、そうかな? 普通じゃない?」


 少し恥ずかしそうにしながらそう言う横山。いや、どう考えてもこの広さが普通っていうのは、そもそも、その価値基準が普通ではないのだ。


「と、とにかく! 勉強! 教えてよ! 後田君!」


 話を切り替えたいと言わんばかりに横山はいきなりそう言ってきた。俺と前野は顔を見合わせる。


 ただ、言われてみれば確かに勉強会をやるためにこの家までやってきたのだ。


「……そうだな。じゃあ、やるか」


 こうして、俺と前野、そして、横山という不思議な勉強会が始まった。


 前野はともかく……横山は相変わらずだった。大して頭の良くない俺が誰かに勉強を教えているというのは中々不思議な感覚である。


「う~ん……結構頑張ったんじゃない?」


 1時間半程度経った頃に、横山がそう言った。


 まぁ、今日一日でどうにかなるなんて思っていなかったし……そんなに根を詰めてやる必要もないのかもしれない。


「……そうだな。休憩するか」


「あ! ウチ、お菓子持ってくるね!」


 そう言って、横山は嬉しそうにリビングから出ていった。


「楽しそうね、横山さん」


 前野もなぜか嬉しそうにそう言う。


「……なんで楽しいんだ? 勉強会だぞ?」


 俺がそう言うと、前野はやれやれと言わんばかりに首を横にふる。


「後田君、ホント、鈍感だよね」


「……は? 俺が?」


 俺が反論しようとしても、前野はニヤニヤと笑っているだけだったので、俺はそれ以上深くツッコむのはやめたのであった。

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