第69話 気付き

 しばらくの間、俺と端井は無言で歩いた。


 俺はなんでコイツが待っていたのか理解できないし、未だに絡んでくるのが信じられなかった。


「いつまで、続けるんですか?」


 急に端井がそんなことを聞いてきた。


「……何をだ?」


「だから、真奈美様のことですよ。明らかに今日……怒ってたじゃないですか」


「……お前に関係ないだろ。そもそも、お前としては俺と前野が仲が悪くなったほうが嬉しいんじゃないか?」


 俺がそう言うと、端井は複雑な表情をする。それから、小さくため息をつく。


「アナタは……私のために真奈美様と険悪になっているんですか?」


「……いや、別にそういうわけじゃない」


「じゃあ、どうしてなんです?」


 どうして……? 言われてみれば確かにそうだ。なんとも間抜けな話だが、確かにどうして俺は前野と未だに険悪なのか。


 それは……俺が聞いてしまったからだ。前野に対して、俺と話していて楽しいか、と。


 そして、俺も同じ質問を前野に聞かれ、俺は……。


「……どうしてだろうな」


 俺がそう言うと呆れ顔で端井は俺を見たあと、そのまま去っていってしまった。


 なんだか、酷くつまらないことで亀裂が入っていた気がする。なんとなくここ数日過ごしていて気付いたことがある。


「……前野と話さないと、つまらないな」


 それは、あまりにも単純で、随分と時間のかかった気付きなのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る