第60話 唐突

 結局、それから数日経っても、状況は変わらなかった。


 前野とはまるで会話がない。前野の方も俺に話しかけるつもりはないようだった。


 といっても、自分から動いていないのだから、何も変らないのは当然である。


 しかし、さすがに気がかりなことがあった


 横山が……未だに休んでいるのだ。


 流石の俺もそれは気になった。そして、明らかにそれがズル休みではないこと、俺自身の行動が原因であろうことは確信に変わっていった。


 だが……あくまで俺は放置した。俺には関係ない。だから、放っておいていい、と。


 しかし、そうにもいかない状況は唐突にやってきた。


「……俺が、ですか?」


「あぁ。隣の席だろ? 家の地図は渡しておくから、よろしく頼む」


 休みすぎている横山に対して、配布物を届ける必要がでてきた。こういうのは郵送すればいいと思うのだが、そうもいかないのだろう。


 そして、隣の席の人物である俺は先生に職員室に呼び出され、その任務を言いつけられたのであった。


「……マジか」


 俺は大量のプリントを抱えながら途方にくれていた。いや……これはさすがに避けることのできない事態である。


「おい」


 と、そんなときだった。聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……あ」


「それ、俺が代わりに届けてやるよ」


 そう言って現れたのは、俺を校舎裏に呼び出した中原真治なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る