空間魔法が当たり前の世界
信仙夜祭
第1話 プロローグ
──カタカタカタカタ……
部屋には、キーボードを激しく叩く音が鳴り響いていた。
そして画面には、『You Win!!』の文字が出た。
「ふう~……。バージョンアップから四十時間でレイドボス攻略完了。しかも
レイドボスとは、MMORPGにおける攻略目標だ。通常は、十数人で一ヶ月程度かけて討伐するNPCだ。
「さて、動画をアップするか」
手慣れた感じで動画編集を開始する男性。
「おーおー。これはまた凄い勢いで、アクセス数が増えて行くな」
画面の数字を見ているのが、主人公の
満足とも、不満とも取れない表情でアクセスカウンタを見ていた。
「う~ん。さすがに疲れたな。何か飲むか」
硬くなった筋肉を解すため、『う~ん』と伸びをして、関節をポキポキと鳴らす。
椅子から立ち上がった
『何だこれ? 手足が動かないし、声も出せない』
意識はあった。だが、何も出来ない。そんな状態で、体感的に数十分だろうか? 思考だけを働かせていた向後空だったけど、最後には瞼を閉じた。
そして、そのまま意識を失った。
◇
「っは?」
ガバっと起き上がった。
どれくらい意識を手放していたか分からない。だけど、生きていた。
手足を確認する。
問題なく動いていた。
「記憶が曖昧だな……。それにここは何処だろう?」
一面、真っ白い世界に自分はいた。影もない。
映画とかで主人公が捕らえられると、こんな空間に飛ばされるのだけど……。もしかすると病院か?
そんなことを考えていた時だった。
――パンパン
「はい、は~い! 起きたようですね。気分はいかがですか?」
二十代と思わる女性が声を掛けて来た。誰だろう?
「えーと……。看護師さんでしょうか?」
「ハズレです。そもそも看護師がこんな格好しているわけないじゃないですか」
そう言われれば、そうだ。時代錯誤も甚だしいその服装を見て、自分がいかにズレた質問をしたのかが、理解出来た。
そうなると……。
「ここは何処でしょうか?」
「あの世と、この世の中間です。狭間と言えば、分かりやすいですか?」
あ、そうか。自分は死亡したのか。ちょっとやり込み過ぎたか。
『ふぅ~』っとため息が出た。
「現状が理解出来たようですね。それでは、本題に移ります」
ん? 本題? 思い当たる事がないぞ。
「すいません、まず確認させてください。自分は死亡したんですよね?」
「はい、死亡していますよ。四十時間飲まず食わずで、脳汁ドバドバでは、それは死にますって」
酷い言われようだ。でも、自分はそう見られるのか。
何かにのめり込める物が欲しくてMMORPGを選んだのだけど、まあ、他人から見れば変人なんだろうな。
いや、話を本題に戻そう。
「志望後に何か依頼でもあるのですか?」
「う~ん。正確には、死亡するかしないかの所で時間を止めています。これから依頼を出すのですが、上手くクリアしてくれれば、生き返らせてあげても良いですよ」
意味が分からない。死亡直後に依頼してきて、生き返らせても良い?
前世を思い出す。あまり良い思い出のない前世だった。
「……いや、生き返らせて貰えなくて結構です。前世に未練もないですし」
目の前の女性が、ため息をついた。
「頭も良く、恵まれた体も持ちながら、何もしない。そして、他者を助けるのは良いけど、助けて貰おうとはしない。それでは、幸福感など得られない人生でしたよね?」
自分の人生は、第三者視点だとそう見えるのか。
何をしても
努力はした。それだけは、胸を張って言える。でも、何をしても
自分の前には何時も天才や秀才が立ち塞がっている人生だった。
どうあがいても勝てない。その度に挫折を味わった。
暇つぶしにゲームを始めて、攻略動画をアップする動画配信者になってみたけど、一位の人とは、それこそアクセス数の桁が違っていた。まあ、生活できる程度には稼げたのだけど。
他人から見れば、才能があったのかもしれないけど、つまらない人生を送ってしまった。
「……それでは、これで」
「待ちなさい。これからでしょうに!」
何だろう? 首を傾げる。
「私の管理する世界は、現在困っている状況にあります。あなたには、その世界に転移して貰い、問題を解決して欲しいのです」
あー、あれか。今人気の異世界転生転移ってやつか。
でも、生き返らせて貰えなくて良いと言ったのに、話を進めるのか。
もう、異世界行きを受ける事が決まっているのかな?
「自分を選んだ理由はありますか? 他の人ではない理由です」
「教えられませんが、もちろんありますよ。『あなた』だから選ばせて貰いました」
あるのか……。受けたくないな。
腕を組んで、『う~ん』と考えてしまう。
「何が不満なのですか? 日本人であれば、喜んで異世界に行くのでしょう? 短剣一本でヒャッホーな人種でしょうに」
酷い偏見だな。だれだ、『ヒャッホー』した奴は。民族として間違った認識を持たれているぞ?
っというか、異世界に行く人は結構いるみたいだ。
さて、どうしたもんかな……。
「報酬の件で相談があります。あなたの希望の通りに状況を好転させたら、『生き返らせる』以外の報酬を頂きたいです。また、報酬の内容は、最後に決めさせて貰いたいです」
「前世に興味がないのですか? 天才や秀才レベルの才能を付与して生き返らせても良いのですよ? もしくは、現在の記憶を持って幼児からの再スタートでも良いですよ?」
ダメだ。ズレている。
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