消しゴムはんこ・砂嵐・指揮者
指揮者の動きに合わせて音楽が動き始める。
会場は県内でも有数の大きなホールだった。行くのは学校行事以来だからずう数年経っている。中の景観は変わった様子もなく、まるで時が止まったかのようにその芸術の在り方を醸し出していた。
今日ここを訪れたのは、友人に誘われたからだ。音楽に精通しているわけでも、趣味としていろいろな音楽を聴き続けているとかでもない。今この場に流れている演奏が良いのかも、曲名すらも分かりもせず。ただ、なんとなく聞いたことがあるような気がする、程度の知識しかない。友人はある程度、知識はあるらしく、それらしい知識を入場前に語ってくれていた気もするが、もう頭の中には残っていない。
こうなるのはわかっていたはずだが、ついてきてしまった以上興味のあるふりをしなくてはならない。間違っても寝るわけにはいかないのだ。
曲が不意に止まり一瞬辺りに静寂が訪れる。何事かと、会場がざわざわし始めた時、ノイズのような砂嵐のような音が鳴り響く。何かの事故かスピーカーからなり続けるそれを止めようとしているのかあちこちにスタッフらしき人が現れては消える。
それでもその音は止まることなく、ホールから出る様にと指示が出され始め続々と観客が立ち去り始める。
誰しもが何が起こったのかわからないままホールから出ていく。そのほとんどの人が不満そうな顔をしている。あまりにそっくりな表情をしすぎていて、消しゴムはんこでぺたぺたと押し付けたみたいだ。
あまりにもその様子がおかしくて友人に耳打ちしたらなんでハンコじゃなくて消しゴムはんこなんだと突っ込みを入れられてしまった。気にするところはそこかと思わないでもない。しかし、はんこほどしっかりと同じ顔をしている訳ではなく、消しゴムで掘ったみたいに少しずつみんな違う歪み方をしているからだと。素直に告げた。しかし、友人はわかったようなわからない様なと余計に首をかしげてしまった。
お前の表現は難しい。なんて言われてしまってもうなんにも言えなくなってしまう。
その間にもノイズのような砂嵐の音は鳴り響いている。そして、ホールから出て外が見えるところまで行くと、人々のざわざわが大きくなっているのに気が付く。
何事か。それは疑問に思う前に解決されていた。
外を本物の砂嵐が襲っていた。砂漠でもないアスファルトが敷き詰められたこの世界でどうしてそうなったのかはまったくわからない。いくら想像しても知識が追い付かない。
わかっているのはだれも説明できないことが目の前で起きているのだということ。
それだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます