砂漠・雑草・ねじれた才能

 非凡な自分をこれほどまでに恨んだことはなかった。必死に勉強しても届かない次元が存在する。それを嫌になるほど思い知らされる毎日だ。

 小学校、中学校と成績はトップクラスに良かった。いや、トップだった。自分が一番頭がいいとどこかで思っていた。しかし、高校。自分と同じようなやつがごろごろいるのに驚いたしわくわくした。だから必死に勉強して、必死に食らいついて、楽勝とは言えないがトップ争いをしたことが幾度となくある。勉強付けの毎日はとても充実していたし、日々前進している感覚がたまらなく好きだった。

 それも大学に入って研究室に入った途端、すべてが変わってしまった気がした。こういうのを天才と呼ぶのだと身に染みて思い知らされた。話の展開が早く、言葉が少なくとも前提があり、彼らには通じているのだろう。予備知識だけではない、そこからの発想が突拍子もないのに的を得ている。そしてそれを彼らは常に続けているのだ。課題点について問われても、くぐもってしまうことが次第に多くなっていく。打合せの内容も8割しか理解できない間に終わってしまう。彼らはすべてを理解したうえで今後こうしたほうがいい。なんて、会話をしているのにも関わらずだ。

 まるで広大な砂漠の上でたったひとつのオアシスを見つけ出さないといけない様な毎日を過ごしていた。隣では足元を少しだけ掘ると水が噴き出しているというのに自分の足元には何も生まれてこない。

 ああ。限界だな。そう思うのに時間はかからなかった。自信の研究は他人に預けて、背伸びをせずに生きようとそう思った。

 この間まで雑草のようだとバカにしていた人達になろうとしていることに抵抗はあったが、それよりも研究室に通い続ける毎日に耐えられそうになかった。

 研究室の電気は必要最低限の物しかついておらず、実験用の機械の駆動音が静かに鳴り響いている。今日も一人で夜遅くまで研究室に残り勉強の毎日だ。前に進まためのものではない、皆に後れを取らないようにするための勉強だ。いや違う、皆に邪魔者扱いされないための勉強だ。それがみじめであることはわかっている。それでも決して諦めたくはない。その思いだけで必死に。必死に勉強を続けている。これだけしか取り柄もないものな。

 ため息と共に、目頭が熱くなるのを感じる。自分の才能に自信があった。誰よりも頭がよくて、誰よりも勉強ができると信じていた。信じていたのに。どうしてこうなってしまったのだ。

 あふれだす涙を止めることはできなかった。

 辛い毎日だ。勉強がこれほど苦痛だと思ったことはない。それでも手を止めることはなく。手書きのノートは埋め尽くされ続ける。

 いつか、報われると信じて。自分自身の才能を信じ続けて。少しでも前に進むそれだけを考えた。気が付くと涙は止まっていたのだが、それすら気づかないまま、必死に進み続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る