03

 仕事の予備知識として事前に読んでいたいくつかのどうでもいい本が、役に立った。


 これは、俗にいう、異世界転生というものだ。


 社会整備でひとむかし前のような暴力や不良に逃げることもできず、グローバル化と通信速度の上昇によって自分よりも才能のある他者の存在、つまり代替の認知を簡単に獲得できてしまう時代。


 自己を確立できなくなった若者の、唯一逃げ込める先。最後の、没入場所。そこでは無条件に力が与えられて、無条件ですべてがうまくいって。


「あるいは」


 無条件にすべてが奪われて、無条件に力を搾取されたりする。エンターテイメント独特の、逆に振れる振り子のような両端特異。


「私は」


 そんなものを求めていないし、そんな世界にも興味はない。


 仕事柄、たまたま、ここに迷い込んだだけ。


「となると」


 やはり、何か、おかしくなっているはず、だった。

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