20分割恋愛奇譚

こみーな

―0― プロローグ

0-ましろ

 深夜のスタジオ兼趣味の部屋。そこには、薄暗いオレンジ色の間接照明の中でパソコンのディスプレイだけが白く輝いている。その光に淡く照らされたティーカップには、冷めかけた紅茶がまだ半分くらい残っていた。

 僕はお気に入りの椅子に身を沈めて、そんな様子をぼんやりと眺めている。


 ましろから連絡のメッセージが入るのを待っているのだ。

 ましろは僕達の娘、年齢は5歳だったかな。

 親ならば忘れないであろう年齢が疑問形なのは、正直なところよく判らないからだ。ましろは5歳、でもその身体は23歳。そして、ましろが生まれたのは、ほんの数ヶ月前なのだ。……大丈夫、僕の頭は壊れていないよ。


 ましろは、涼音という女性の別人格。

 解離性同一性障害(多重人格)の彼女の中で生まれた別人格。

 そして、僕と彼女の子供みたいなものである。


 思い返せば、彼女との間に不思議な出来事がたくさんあった。

 こんな事が現実にあるのか!と戸惑いながらも、必死に彼女と向き合って理解しようとしてきた時間。それは、何も知らなかった僕にとって『驚き・気付き・発見』の連続、そこには『苦しみ・悩み』があり、それは『理解と恋』の過程でもあった。

 最近、ラノベやアニメでは異世界モノが流行ってるらしいけれど、そんなところに行かなくても、この世界は十分に未知で不思議な事があるんだと思えた程だった。


 『人格』とは?『記憶』とは?『自我』とは?

 そんな事を考え続けた時間だった。


 あれから一ヵ月、僕はゲームからログアウトしたかのように、冷静に様々な事を考えていた。そして、整理がついたので鏡(裏人格)と一度話しておきたくて、ましろに、鏡と電話で話せるように仲介を頼んでいたのだ。



23時を少し過ぎた頃。

携帯端末が「ポン!」と柔らかい音を奏でる。ましろからのメッセージ着信音。


――――――――――

おとうさん おまたせ

おでんわして

――――――――――


 鏡(裏人格)と話す時がきたか……。

 僕は電話をかける前に、目を閉じてこれまでの事を思い出していた。

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