寺生まれじゃないTさん
十
Tさんの怖い話
きっかけは、Tの愚痴であった。
「いやー、破ァ! とか言って祓えるんならここまで苦労はしてないね」
スマホを座っているソファに放ったTに、Kは彼女の作ったさくらんぼサイダーを飲みながら、当然のごとく首を傾げた。
「えっ、急にどうしたんです? とうとう除霊グッズの依頼?」
折しも夏、気温が高すぎてセミの鳴かない夕方である。KはTの「聞きたい?」という笑みに何となく肌寒くなるのを感じて、急いでパーカーを羽織った。Tさん家のクーラーは優秀だからね……と思うことにする。
「まあほら……今夏だしさ、盛り上がるよねー。怪談」
「ああ、もしかして『寺生まれのTさん』ですか?」
そう、と彼女は頷いた。
『寺生まれのTさん』とは、奇妙な怪談的体験をし、絶体絶命のピンチという場面で、寺生まれのTさんの「破ァ!」という声によって解決し、「寺生まれってすごい」で締めくくられる一種のネット怪談である。
「やだなあ、怖い話始めないでくださいよ? 私が怪談苦手なビビりって、Tさんしってるでしょ」
「うん、雷にビビる柴犬みたいでかわいいよね! でもKさん聞くでしょ。わざわざ確認してきたし」
雷が苦手なのはTさんの方なのに、と呟きながら、Kは唇を尖らせる。それでもコップをローテーブルに置いて、聞く体勢を取ったKの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「それじゃあ……あれ?」
慌てて窓に駆け寄る彼女の後をついて、Kも窓から外を眺める。
「今、雨の音がしたんだけど……」
「私は何も……。降って……ない、ですね」
TとKは二人で顔を見合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます