寺生まれじゃないTさん

Tさんの怖い話

きっかけは、Tの愚痴であった。

「いやー、破ァ! とか言って祓えるんならここまで苦労はしてないね」

スマホを座っているソファに放ったTに、Kは彼女の作ったさくらんぼサイダーを飲みながら、当然のごとく首を傾げた。

「えっ、急にどうしたんです? とうとう除霊グッズの依頼?」

折しも夏、気温が高すぎてセミの鳴かない夕方である。KはTの「聞きたい?」という笑みに何となく肌寒くなるのを感じて、急いでパーカーを羽織った。Tさん家のクーラーは優秀だからね……と思うことにする。

「まあほら……今夏だしさ、盛り上がるよねー。怪談」

「ああ、もしかして『寺生まれのTさん』ですか?」

そう、と彼女は頷いた。

『寺生まれのTさん』とは、奇妙な怪談的体験をし、絶体絶命のピンチという場面で、寺生まれのTさんの「破ァ!」という声によって解決し、「寺生まれってすごい」で締めくくられる一種のネット怪談である。

「やだなあ、怖い話始めないでくださいよ? 私が怪談苦手なビビりって、Tさんしってるでしょ」

「うん、雷にビビる柴犬みたいでかわいいよね! でもKさん聞くでしょ。わざわざ確認してきたし」

雷が苦手なのはTさんの方なのに、と呟きながら、Kは唇を尖らせる。それでもコップをローテーブルに置いて、聞く体勢を取ったKの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「それじゃあ……あれ?」

慌てて窓に駆け寄る彼女の後をついて、Kも窓から外を眺める。

「今、雨の音がしたんだけど……」

「私は何も……。降って……ない、ですね」

TとKは二人で顔を見合わせた。

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