第57話 リーフ

「リーフ。こんなところにいたのか」


 リーフは一人、暁に染まった夕焼けを眺めていた。


「イージス。どうしたの?」

「黒丸たちが心配してたぞ。リーフがいない、リーフがいないって」

「そう……なんだ」


 リーフは寂しげに呟いた。

 既に消えた森の端で、リーフは小さくうずくまって寂しさに埋もれていた。

 世界とは儚いものであり、そして悲しいものである。それを理解しているからこそ、リーフは寂しいという感情を隠すことはできなかった。


「イージス。私は何も護れなかったよ。何も護れない……ただの弱者だったよ。今さら、あいつらに何て言えばいいか……」


 リーフは首にかけていた笛を投げ捨てた。

 空を見上げたリーフの瞳からこぼれたのは、美しいまでの透明な一粒の雫であった。


「リーフ。君は護ったじゃないか」

「私は何も……」

「いいや。護ったさ。森は消えてしまったけれど、それ以上に大切なものを、リーフは護れたんだよ」


 そこへ、白丸と黒丸、他にも多くのモンスターたちがリーフへと歩み寄っていた。


「リーフ。俺はあんたに救われた。暴走する俺を、あんたの優しい笛の音で癒してくれたんだ。そのことは今でもちゃんと覚えているさ」

「リーフ。俺もリーフがいなかったら、ずっとひとりぼっちのままだったんだ。だからさ、森がなくなっても、俺たちの長で居続けてくれ」


 黒丸はそう言った。


「いや。私は森ひとつ護れなかったんだ。もう、こんな弱い私では嫌だろ」


 そう彼女は呟いた。

 きっと彼女は自分など必要とされていないと、そう思っていたのだろう。だがそれは違う。


「リーフ。別に強くなんかなくたっていい。ただ……優しいだけでいいんだ」

「俺たちを大切にしてくれたリーフだからこそ、俺はリーフとともに生きたいと思ったんだ。だからさ、そう悔やまないでくれ。そう自分を責めないでくれ。リーフは、優しいだろ」


 リーフは笑みをこぼした。


「本当にお前らは……私の心を簡単に動かしちゃうんだから。やっぱ私は、君たちの長でいたい。そう、心の底から思ったよ」


 リーフの笑みに、つられて黒丸たちも笑みをこぼした。

 いつだって全てを護れるわけではない。だがそれでも、本当に大切な何かを護れたのなら、その何かを救うことができたのなら、きっと他に何もいらなくなるくらいに嬉しいのだろう。


「リーフ。やっぱり俺たちの長は、あんた以外には考えられないよ」


 そう呟き、皆はリーフのもとへと駆け寄った。


 ーー仲間を護れ。仲間を思え。仲間を愛せ。それでこそ本物の英雄だ。


 きっと彼女は英雄なのだろう。

 仲間とともにいる時の彼女は、愛くるしいまでにかわいいのだな。

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