第9話 モーブル到着
アルとレネオが隣町モーブルに着いたのは、日が暮れる直前だった。
「暗くなる前に着いて良かったね。モーブルに来たのって半年ぶりぐらいかな」
レネオは辺りを見回しながら呟いた。
「俺は二年ぶりってとこだな。なんも変わってなさそうだ」
手を目の上にあてながら、アルも周りを観察する。
モーブルは町の境界線があるわけではなかった。
町の入口らしきものは無く、道なりに歩いていると、だんだんと建物が増えてくる。
町の周りで畑を持っている者もいれば、牧場を持っている者もいて、町というより村のような雰囲気だが、町の中心まで行けばお店が並び、それなりに活気もあった。
「とりあえず宿屋に行こうぜ。荷物置いたら飯食いてえし」
アルは勝手知ったる様子で歩き出した。
向かったのは町に数件ある宿屋のうち、ザレアの村人御用達の宿屋。
食事がつかない分、良心的な値段で、村人の親戚というのもありザレア村の者は必ず同じ宿に泊まっていた。
「おや? おめえ達はたしかザレア村の」
迎えてくれた宿屋の主人はかっぷくが良く、白髪交じりの髪は薄く半分ほど地肌が見えているが、エプロンをしているせいか不思議と清潔感があった。
「はい、ザレア村から来ました。冒険者になるためにウォルテミスに行くところです」
レネオは丁寧に答えた。
「おお、そうかそうか。ザレア村から冒険者なんて珍しいねえ。おめえさんは村長のとこのやつだな。冬ぐらいに来たの覚えてるぞ。そっちの小僧は随分大きくなったな。ガハハハッ!」
笑い上戸の宿屋の主人はアルの方に目をやった。
「ああ! 前来てから二年ぐらい経ってるからな。それなりに成長してるぜ」
アルは嬉しそうにそう言った。
実際、この二年でアルはだいぶ大きくなっていた。戦士希望というのが成長に影響あるのか不明だが、レネオより小さかったアルが、今は少し彼を越えていた。
「ガハハハッ! 成長することはいいことだな! 短髪の方が戦士で、村長んとこのが魔法使いか。で、ウォルテミスに行ったら冒険者学園に入るのか?」
宿屋の主人は、二人の恰好を見ながら聞いた。
「いえ。学園はお金が掛かりますので、最初から冒険者ギルドに登録するつもりです」
「そりゃあまた、大変なほうを選びやがったな! おめえらレベル10ぎりぎりだろ? 生活が安定するまで最初は苦しいだろうが、やるからにはしっかりやるんだぜ。おっ、そうだ、今日の宿代は半額にしとくな。ガハハハッ!」
宿屋の主人は歯並びの良い白い歯を見せながら笑うと、部屋の鍵を渡してくれた。
アルとレネオは、二階に上がった部屋に荷物を置きベッドに座ると一息ついた。
部屋は全てが木製で、ベッドが二つと小さなテーブルがあるだけのシンプルな造りだったが、銀貨二枚にしては十分すぎる広さだ。
お金を使い慣れてない二人にそれは分からなかったが、古いわりに小綺麗な印象を受けていた。
「あいかわらず元気なオヤジだったな」
アルが肩コリをほぐすように腕を回しながら言った。
「うん、相変わらずだったね。あんな元気だと、話してるこっちも元気になる気がするよ。宿代まけてくれたのも助かるし」
前回来た時の宿屋の主人の様子を思い出しながら、レネオは言った。
「それにしても半額で銀貨二枚かぁ。やっぱ金って思ったより掛かるな。レネオのおじさんとおばさんには、ホント感謝だな」
「お金が不足するのは目に見えていたからね。ギルドに登録してもどのぐらい稼げるか分からないし。お父さん達に貰えなかったら、全然足りなかったかもしれないね」
「だよな。装備は出発前になんとか揃えたから良かったけど」
アルは腰のショートソードを触りながら、もう片方の手に持っているバックラーを見た。
この前のコボルド戦の傷が残っているが、真新しいより冒険者っぽくて気に入っていた。
「最悪、食事は山や川で調達して野宿すれば生きていけるけど、クエストするなら薬草やポーションは必要になると思うからね。当分は考えながら使わないと」
「節約ってやつだな」
アルは生まれてこの方、考える必要もなかった言葉を使った。
お金を必要としないザレア村の生活では、節約なんてする家庭はなかった。
山や川は自然豊かで狩りスキルや採取スキルさえあれば、食べるのに困ることもなく、ここ十年凶作になることもなかったので、畑からは穀物や野菜は十分に収穫があった。
ある意味、ザレア村は裕福な生活と言えた。
「でも……」
レネオはそう言いながら立ち上がり、お金の入った布袋をアルに見せると、
「今夜は酒場に行って食事だね」
と笑顔で言った。
「ああ。ブライアン先生に、町に寄る時は必ず酒場で食事するよう言われたからな」
「そうそう。冒険者は酒場での情報集めが大事だからね。僕らはお酒は飲めないけど、食事は酒場でするようにって。必要経費ってやつだよ」
難しい言葉を使うな。アルは部屋を出ていくレネオに付いていきながら、顔をしかめていた。
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