第2話 卒業試験
次の日、アル達は朝から村の外れにあるブライアンの家を訪れていた。
誰も使っていなかったボロ家を買い上げたブライアンだったが、大工仕事や庭の手入れには抜かりなく、すっかり綺麗な
彼としてはそんなことがやりたくて、辺境の村にやってきたのもあった。
「先生、言われた通りしっかり装備してきたぜ」
昨日の訓練後にブライアンから貰った皮の鎧を着込んできたアルは、手に持ったショートソードと
ショートソードは14歳の誕生日に、
「僕はこれね」
レネオは魔法使いの杖を
何の装飾もない地味な黒い杖だが、魔法使いだった祖父から借りた、火属性魔法のダメージが上がる効果を持っている魔法具だ。
「よく来た二人とも。中へ入れ」
ブライアンは二人を通し、テーブルの上に地図を広げながら話を続けた。
「お前たちには卒業試験を受けてもらう」
「卒業試験?」
アル達は声を揃えた。
「そうだ。レベル10になり、冒険者ギルドで登録をすれば誰でも冒険者にはなれる。だが……」
ブライアンは二人に向き直り、真剣な顔で語った。
「本当にお前たちが冒険者として生きていけるか、今日はその試験だ」
いつもと違う強い口調に、アルとレネオは緊張した。
「何をすればいいんですか?」
レネオが尋ねると、ブライアンは地図上に指を差し、いつもの落ち着いた調子で、
「このウルジル山の麓で、はぐれコボルドが最近目撃された。それを退治してくるんだ」
と話した。
「コボルドだって!?」
アルが反射的に大きな声を出す。
レネオも少し声を強張らせながら
「コボルドって……モンスターですよね?」
「ああ。――――何度も話したが、世界には人間やエルフなどの亜人族に敵対する、モンスターと呼ばれる存在がいる。奴らは好戦的で人間を見ると襲ってくるが、生息エリアが限られている。アル、しっかり覚えているか?」
「もちろんだ!
「正解だ。この村周辺にはモンスター生息エリアは無いから、どこから流れて来たかは分からんが、コボルドを見たという村人が何人も出てきている」
ブライアンの話では、コボルドの目撃情報が入ってくるようになったのは半月ほど前から。
『犬のような頭部をもつ人間型の生物』と語られることが多いコボルドは、それを見たことがない村人でもコボルドだと分かったようだ。
目撃情報は全て1匹だったので、単体の可能性が高いが、村に程近いウルジル山というのもあり、実際に被害が出る前に何とかしたいところだった。
「冒険者を引退して何年も経つ俺でも、コボルド一匹ぐらいはどうとでもなるが」
話を聞いていたアルは、無意識に手を握りしめていた。
「それを俺たちで退治してこいってことだな!」
「そういうことだ」
まるでちょっと買い物を頼んだだけだと言うように、ブライアンは緊張感のない笑顔を見せた。
それからアル達は、すぐに村を立ち西へ向かった。
今すぐ向かえば、ウルジル山の麓には昼前ぐらいに着く。
暗くなる前にコボルドを見つけたい。
「それにしても先生のヤロー、簡単に言ってくれるよな」
道中、アルは不服そうに漏らした。
「まあまあ。先生だって僕たちを信頼してるんだよ」
レネオはアルをなだめた。
実際、ブライアンは二人を信頼していた。
彼らの五年間を間近で見てきたのだ。コボルドごときに負けるようなことはない。
実はレベルだけで言えば、アルひとりでも退治できるだろう。
しかし、訓練と実戦は違う。
弱いモンスターとは言え、向こうも命懸けで向かってくる。
初めてモンスターと戦う二人が、どれほど実力を出し切れるか分からない。
殺されるようなことはなくても、怖気づいて逃げ帰ってくるかもしれない。
平和な村で生まれ育ったアルとレネオが、冒険者として生きていける勇気があるか、確かめる卒業試験だった。
「なあレネオ。HPはどれだけあるんだっけ?」
アルに問われると、レネオは左手をかざした。
名前 レネオ
年齢 15歳
レベル 10
種族 人間
職業 村人
HP 88/88
MP 78/78
攻撃力 10
防御力 25
武器 烈火の杖
防具 ローブ
基礎パラメータ
筋力 :84
生命力:98
知力 :121
精神力:119
敏捷性:95
器用さ:103
「HPは88だよ」
「そっか。さすがに一発で致命傷になることはないと思うが、レネオはなるべく離れて戦ってくれ。俺が近づいて戦うから、トドメは頼むぜ」
「うん、分かった!」
敵の攻撃は全てアルが引き受ける。
皮の鎧の防御力は高く、盾のスキルレベルもしっかり5までは上げてきた。
レネオは付かず離れず動き周り、少しでもアルが有利に戦えるよう、相手の気を逸らす。
アルの攻撃で相手をある程度弱らせたところで、レネオの攻撃魔法を使う。
攻撃魔法は、相手が警戒しないよう最後まで使わない。
二人は歩きながらどう戦うか話し合った。
戦術もしっかりブライアンから教わってきたのだ。
「自信持って行ってこい!」
恩師にはそう言われて送り出された二人だったが、ウルジル山が近づくにつれ緊張感が増すのを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます