強さを抱えた女の子~そうして世界は救われた~

皮以祝

第1話 新たなバディ

 目の前に広がる赤色は、今となっては見慣れた光景。血に濡れた剣を振るが、その色が落ちることはない。


「……帰るか」


 亡骸をそのままに、記録班や補助員などをおいて、その場を立ち去る。ここからは勝手にやるでしょう。



・・・



「イクサガミか」

「私には蓮華れんげって名前があるんだけど?」

「イクサガミという名の方が有名だと思うがな」


 目の前のじじいが言うイクサガミは私の力。武器の性能を引き出したり、体が動かしくなったり、まあ、戦いやすくなるって力。


「褒賞金はいつも通りに振り込んでおいた」

「ええ。後で確認しておくわ」

「それで、どうだ? 今回のバディは」

「ゴミね」

「……あれでも他からの評価はよかったんだがな」

「調子に乗って前に出てきたわよ。邪魔でしょうがなかったわ」

「バディをつける気はないのか?」

「だから、前からずっと言ってるけど、そんな気ないわよ」


 この男は、前から私にバディの候補を連れてきては強制的に同行させている。


「いやなのはわかっているが、そういうわけにもいかない。……唯一の特A級がバディも持っていないというのは」

「いまさら何よ。私が特A級に選ばれた時だってバディなんていなかったじゃない。」

「そのあとに議題に挙げられたのだが、覚醒者のトップのバディが空席だというのはとても面倒なのだよ」

「どうせ、私とは関係ないことでしょ? どうせ役員の子供とかをねじ込みたいとかそんなことじゃない?」

「……」


 沈黙は雄弁ね。


「もし、ねじ込んだりして、そいつが死んだとして、責任取らないわよ」

「それも困るのだ」

「だったら諦めなさい。なんだったら、私が不満気だったとか匂わせてもいいわ」

「それはもうしているが、お構いなしにしようとするやつはいるものなんだ」

「面倒ねぇ」


 他人事のように言った私を、ぎろりと睨んでくる。


「怖くないわよ」

「はぁ……」

「ため息つきたいのはこっちなんだけど?」

「まぁ、これから面倒になるのは私ではなく、お前だからな」

「は?」

「当然だろう。お前のバディなんだから」

「はぁ? 今まであんたがやってたじゃない」

「もう私には無理だ。つかれたのだ」

「おい」

「いやなら自分で探せ。次の日曜までだ」

「いや、そもそも、日曜日って明後日よね?」

「正確には明日中な」

「時間ないじゃない」

「もう選択肢は勝手に決められるか自分で決めるしかないんだ」

「ちょっと、勝手に」

「私はもうこの件には明後日まで関わることはない。バディが決まってなかったら日曜日に会議で決定するからな」

「決めないわよ!」

「給料減らすことを提案する」

「は? そんなことしていいと思ってるわけ?」

「もともと、お前に払っている褒賞金はバディがいることを考慮して考えられている金額だ。それをお前が一人で受け取っているんだから、1人分にすることは何の問題もない」

「卑怯よ!」

「だったら、はやくバディを見繕え。お前はまじめすぎる。形式的に適当なやつを選んでおけばいいんだ」

「褒賞金減るじゃない!」

「そこは知らん。……戦場に連れて行かなければバディに褒賞金を払う道理もないな」

「……そうね」

「急いだらどうだ?」

「そうね!」

「すまんな」


 扉に怒りをぶつけ、力強く閉める。最悪の日だわ……




・・・



「でも、本当に要らないのよね。バディとか」


 思わず独り言をつぶやいてしまう。


「……あはは」


 覚醒者の情報を管理している情報局。その受付の女は引きつった笑いを浮かべている。


「何?」

「いえ、今集めているのでお待ちください」

「……今って何集めてるの?」

「C級の方やD級で目立った成果を上げた人たちの情報ですね」

「いらない」

「え?」

「E級の情報を渡して」

「ほ、本気ですか!?」


 目と口を大きく開いている。面白い顔ね。


「面白い顔ね」

「ひどいですね!?」

「口に出すつもりはなかったわ」

「……本当にE級の方でいいんですか?」

「ええ」

「E級は他の級位に比べて数が多いので……どうされますか?」

「誰か推薦できる?」

「誰も推薦できません。E級ですから」


 覚醒者は、特A級からE級にランク付けされている。

 実際に使えるかは別。A級で使えないやつもいれば、C級で使えるやつもいる。DとEはなかなか関わる機会はない。いや、Dならぎりぎりあるけど、Eはない。戦場に連れて行くとすぐに死ぬから。


「使えないやつでいいから」

「……E級の時点で期待できないと思うのですが」

「なんかいないの?」

「と言われましても、横並びというか……」

「えぇ…… あっ、急いでるから、近くにいるやつ」

「少しは絞れましたが…… 年齢はどうされますか?」

「あー、おんなじくらい。 あと男はやめて。こりた」

「……なるほど。年齢をうかがってもいいですか?」

「15」

「15…… 15!?」

「なによ、今更」


 驚いた顔でこちらを見る。いいから早く候補出してくれないかしら。


「……E級を戦場へ連れていくつもりですか?」

「あんたに関係あんの?」

「さすがに死ぬのが分かっていて推薦するのも……」

「連れてかないわ。邪魔じゃない」

「……わかりました。こちらの方はどうでしょうか?」


 渡された資料に写っていたのは金色の長い髪をもつ女だった。


笹守ささかみ愛花あいかさん。現在15歳で高校入学前の春休み中です」

「それでいいわ。呼んで」

「今から、ですか?」

「急いでるの」

「……わかりました」


 受話器を手に取り、番号を打ち込んでいる。

 カウンターに背を預けて、外を見る。馬鹿みたいに数ばかりいて、何にもならない。もっと選別すればいいのに。


「あの……」

「ん? 連絡取れた?」

「すこし話したいそうです」

「はぁ? ……ったく、なんなのよ」


 受け取り、耳に寄せる。


「受けるの? 受けないの?」

「あ、あの、本当に私ですか?」

「は? 受けるのか、受けないのか聞いてるんだけど?」

「でも、私何にもできなくて……」


 ……もう別のやつにしようかしら。


「いいから答える! 受けるの!? 受けないの!?」

「う、受けさせてもらいます! 私でいいなら……」

「あんたを任務に連れて行ったりしないから安心しなさい。書類上バディになるだけで、あんたは今までの生活を続ければいいわ」

「そ、そうなんですか?」

「じゃあ、今すぐ情報局に来なさい」


 切る。


「はい」

「よかったんですか?」

「何がよ?」

「……いえ」




・・・




「お、お待たせしましたぁ」

「遅い」

「すみません……」


 走ってきたのか汗を流している。


「汚いからさっさと拭きなさい」


 ハンカチを出して投げつける。慌てながらも受け止めている。


「え、あっ! わ、私持ってるので! えっと…… あれ、ない?」

「いいからさっさと拭きなさい」


 女の手からハンカチを奪い、顔に押し付ける。


「ぶっ」

「自分で拭きなさい」


 手を離すと、おとなしくそのまま拭いていた。


「あ、あの…… ちゃんと洗って返しますから……」

「いい、大したもんじゃないし、あげる。それより、登録するからついてきなさい」


 さっきの受付の女が入っていった扉を追って入る。


「はい、準備できました。はじめまして、笹守様。情報局で受付嬢をしております、多砂たずな 菫子すみれこと申します」

「あんた、そんな名前だったのね」

「はい。 ……イクサガミ様はいきなりでしたからね」

「イクサガミっていうな」

「……武神たけがみ様」

「で、はやくして」

「はい。えっと、武神様は最近のもの、というかこれ一昨日のでは?」

「一か月に一回くらいやらされてるのよ」

「これならそのままでいいので、笹守様の登録とバディ契約ですね」

「私座ってるわよ」

「はい。笹守様はこちらへ」

「わ、わかりました」


 血を採っているのを見ながら、部屋を見渡す。

 棚にファイルが並んでる。一つを手に取り、開く。


「これって、私も載せられるのよね?」

「はい、そうなっています」


 戦死者の記録。個人情報がかなり詳細に書かれている。


「何型にされますか?」

「型ってなに?」

「腕輪型、首輪型、指輪型、首紐型があります」

「ああ、あれね」


 バディが互いに持つ魔道具。互いの位置が分かる程度の意味しかない。


「指輪にして」

「え」

「他のは邪魔だわ」

「……あの笹守様は」

「わ、私もそれで大丈夫です」

「わかりました」


 何か打ち込んだ後、すぐに二つの指輪が出てきた。


「はい、どうぞ」

「これ、何指につけるのよ」


 明らかに指の太さを想定したとは思えない大きさの指輪を渡された。


「大きさは自動で調整されて、つける指は何指でも、左右のどちらでも構いません」

「ふーん」


 普通、指輪は薬指につけるんだったかしら?

 右手の薬指に指輪を通した。


「え」

「なによ」


 笹守がこちらを見て驚いた顔をしていた。えっと、多砂も。


「わ、わたしも……」


 手をじっと見ていたかと思ったら、私と同じ位置に指輪を付けていた。


「これでいいのよね?」

「は、はい……大丈夫ですが……」

「何よ」

「いえ! これで契約は終了です」

「そ、じゃあね」


 情報局から出た瞬間、電話がかかってきた。


「誰」

「私だ」


 私がこんなところに来る原因となったじじいだった。


「今終わったわよ」

「わかっている。こちらで確認したから連絡したんだ」

「そ」

「これから笹守殿と共同生活を送るのだから、その性格を直すべきだぞ」

「……は?」

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