第113話 梟

「いや、ほんほごべんなさい……」


 男は腫れ上がった顔を必死で動かしながら、謝罪の言葉を口にする。


 広場の中央では、ファルバート一家を名乗る男が両腕を縛られ、ビリビリに破けた服を纏い、正座して座らされていた。


 周りからは浮浪者や荒くれ者たちが集まり、ニヤニヤと眺めている。


「あれれえ、これってごめんで済むんですかね?」


 アリスはにこやかな笑みを浮かべながら、ばしんと自分の手を叩く。


 その後にびくん! と反応して、男たちは地面に頭を擦り付ける。特に、俺が戦った方ではない周りの2人が。


「エミリーのお部屋もぐちゃぐちゃですし、もちろんその弁償は……」

「出させて頂きます……」


 しゅんとした男は、喋りずらそうにしながらも返事を漏らさまいと必死に応える。


「……何したんだ、あんた」

「ふふふ、聖なる力を見せただけですよ」

「…………そうか」


 怖いな、この人。


 アリスはにこやかな笑みをこちらに向けてくる。

 聖魔法だけじゃないのか。

 

 その奥から、クラリスが何やらよくわからない表情でコチラをみているが、それよりも問題はこいつらだ。


「――で、お前たちの目的は?」

「エ、エミリーの救出だ」

「救出? やけに強引だったが」


 すると男は身を乗り出す。


「そ、それはあんたらがエミリーを探ってるのはわかってたからだ。あんたら、冒険者だろ?」

「まあ」

「あんたらが強引にでもエミリーを連れてくと思ったのさ。俺達の任務はエミリーをボスの元へとエスコートすること。後手に回って大事な護衛担当を傷つけたとあっちゃ俺たちは殺される」


 男は険しい表情でこちらを見る。

 さっき戦った感じからも、この表情からも嘘を言ってるようには見えない。


「エミリーがそんなに重要なのか?」

「それ以上はボスしかわからん。俺も詳しく聞いたわけじゃない」

「ふむ……」


 俺たちがエミリーたちのパーティを探ってたのがバレていたか……エミリーは予想より深いことを知ってるのか? それとも、エミリーたちはただの冒険者じゃなく、それこそファルバート一家お抱えの冒険者だったか……。


 どちらにせよ、ファルバート一家とやらに聞けば全てわかるか。


「わるいが俺たちが知ってるのはここまでだ」

「本当ですかねえ」

「ほ、本当だ!! だからさっきのあの眩しいやつは辞めてくれ、頭がおかしくなる!」


 マジで何したんだこの聖女。


「どうしましょう。一旦他の方々と合流して情報交換します?」

「……いや、時間がもったいない。俺達でファルバートってやつに会いに行こう。もっと何か知ってる気がする」

「正気か!? ボスがただの冒険者と会う訳ないだろ!?」


 するとクラリスがぐいと鼻息の荒い男に詰め寄る。


「あなた知らないの!? ここにいる方を!?」

「いや……まあ不勉強で悪いが……」

「有名な雷帝ヴァン様よ!! 最年少でS級へ到達した最強の魔術師! わかる、ヴ・ァ・ン様!」

「ヴァ、ヴァン……?」


 男は苦しそうにその名前を反芻する。


「そこらの冒険者と一緒にしないで頂戴。ヴァン様が頼めばあなた達のボスだってぜひ会いたいと――」

「それくらいにしておけ、クラリス」


 俺はクラリスを静止する。

 やめてくれ、こっちが恥ずかしくなってくる……。


「ゆ、有名な奴なんだな、悪かったよ……。だがアジトの場所を売ることはできねえ。許可が必要なんだが、そう簡単に一般人にアジトへの入場許可は――」


 ――とその時、スタッ。と1人の黒い影が俺たちの真横へと降り立つ。


「…………梟……! 何故ここに!? まさか、許可が!?」


 どこから現れた……?


 真っ暗な装束を纏った男はじろりと座らされている男たちを見たあと静かに口を開ける。


「開名――」

「! し、白蟻!」


 男が答えると、装束の男は続ける。


「ファルバート様が男たちを連れてこいとご所望だ」

「ボスが……!?」

「二度はない、次は失敗するな。以上だ」

「は……ハッ!」


 そう言って黒装束の男はすぐさまその場から消えていく。


 伝令係ってわけか。にしてもすごい実力者だったな。スピードだけならフラッシュを使う俺と互角か。


 男は深々と下げた頭を上げると、こちらを見る。


「――命が下った。解いてくれ、ボスがお前達をお呼びだ。アジトへ案内してやる」

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