第86話 待ち望んだ戦い
「やったなニーナ」
「うん、ありがと!」
ニーナと俺はハイタッチする。
「ノア君のアドバイスのおかげで勝てたよ、ありがと!」
「そんな大したもんじゃねえよ。ニーナの実力さ。いい戦いだったぜ」
「えへへ。褒められちゃったよ」
ニーナは照れたように少し顔を俯ける。
すると、すぐさま俺の入場を促すアナウンスが聞こえてくる。
「――っと、もう時間のようだ。行ってくるとするわ」
「うん、がんばってね!」
「準決勝は俺と戦うんだ、今のうちに俺の弱点でも見つけておけよ」
「うっ……が、がんばる……!」
◇ ◇ ◇
「いよいよだ。この時を楽しみしていたよ」
レオは、爽やかな笑顔を浮かべながら俺に言う。
「俺もさ、レオ。悪いな、俺と一回戦で当たるってことはここで終わりってことだ。お前の力は認めてる。反対の山だったら決勝までいけたのによ」
「はは、ノアは相変わらずだな。確実に勝てると思っていると言う訳か」
「まあな。だけど、油断はねえぜ? 慢心もしねえ。ただ実力を出すだけさ」
するとレオは嬉しそうに顔を輝かせる。
「それでこそ僕の戦いたかったノアだ。君の実力が輝くところを見たいと思っていた。君程僕の琴線に触れる魔術師には出会ったことがない……! 魅せてくれ、君の輝きを……魔術の神髄を!!」
「おいおい、いつもに増して意味不明だな」
「はは、どうやら僕も気持ちが昂っているみたいだ。こんなの初めてだ。わくわくが止まらない……それに、君なら僕も本気を出せそうだ」
レオはいつも通り爽やかに。されど、その瞳の奥には確かに狂気が宿っていた。
これが、レオ・アルバート。
「だろうな。お前の全力、見せてくれよ」
「いいね、ノア……君のような相手を待っていた!」
俺とレオは、お互いに笑みを浮かべ会場の中央で向かい合う。
人気No.2のレオ……恐らくこの学院の一年でもトップを争う実力者だろう。
本来なら決勝で戦ってもおかしくない。一回戦で俺と当たるのはついてなかったと思って貰うしかねえな。
――まあ、レオは微塵もそんなこと気にしてねえようだが。
俺としても、レオが反対の山でリオ・ファダラスに敗れて戦えないパターンより、一回戦で戦える今の状況の方がありがたい。対人戦を学びに来た俺には絶好の相手だ。
俺は手首をぐるぐると回し、態勢を整える。
油断はしない。慢心もしない。遠慮もしない。
殺さないように、だが、手加減しすぎないように。
……レオなら、多少本気を出しても答えてくれるだろう?
「それでは第四試合――はじめ!!」
レオは早速右手を翳す。
「来い、――魔剣アルガーク。最初からフルスロットルだ」
翳した手の下に魔法陣が現れる。
そこから召喚されるのは、黒と黄の禍々しい魔剣。
魔剣アルガーク。
「いいね、その判断。正解だ。様子見何かしてたらすぐ終わってたぜ。さすがはレオだな」
「その軽口も心地よい。真の強者の力、見せて貰おう」
「だったら……俺を追い詰めて見せるんだなあ!!」
「当たり前だ!」
すぐさまレオは剣を振りかぶる。
それは、アーサーを一撃でのしたあの魔術。
いきなりぶっぱなすとは、わかってるな、レオ。
「悪いが、加減してる余裕はない。――"暁の一撃"」
眩い光が、レオの魔剣から放たれる。
そのいきなりの攻撃に、会場中がどよめく。
「いきなりあの特大魔術!?」
「そんなレオ・アルバートが警戒する相手か!?」
観客の声を切り裂くように、一陣の光が俺目掛けて駆け抜ける。
いい魔剣だ。魔剣の種類はさまざまだが、これだけ攻撃極振りな魔剣も珍しい。
自慢の一振りと言う訳か。
だが――。
俺はそっとその砲撃の方へ向かって手をかざす。
「――"サンダーボルト"」
幾重にも折り重なる雷が、レオの"暁の一撃"に向けて集約する。
激しい雷鳴と共に小規模な爆発が起こり、土埃が舞い上がる。
「…………はは……恐ろしい。アルガークの最大攻撃だぞ?」
「結構強いな。サンダーボルトの最大出力で相殺か」
今までサンダーボルトは広範囲だしスパークの次に出が早く汎用性が高いから使ってきた魔術だ。だが、その出力を最大で出したことは無かった。
さすがに、魔剣の攻撃を受け切るには普段の威力じゃ足りなかったようだ。さすがだな。
――が、どうやら予想以上に今の現象は驚愕だったようで、レオの額に僅かに汗が滲んでいる。
「サンダーボルトで相殺!?」
「冗談だろ……魔剣の攻撃だぞ!?」
「本物か、ノア・アクライト……!」
会場中が今の攻防で一気に騒めき出す。
「おっと、魔術初心者には刺激が強すぎたか?」
「はは……はは! いい、いいな! もっと見せてくれ……!! 君の魔術を!!」
瞬間、レオの周囲から複数の剣が湧き上がってくる。
どれもこれもが魔剣聖剣の類。
まるで悪役のように、レオの顔が邪悪な笑みにまみれる。
「魔剣を……聖剣を……! 僕のすべてを持って君を切り刻もう……! 魅せてくれ、ノア・アクライト! 君の輝きを!!」
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