第17話 初日
「お――……おき―――――」
うるせえなあ……。まだ夜中だろうが……。
もっと寝かせてくれシェーラ……。
俺はそのまま布団を頭まで被り、もう一度目を瞑る。
もう一回夢の中へ――
「起きて、ノア君! 初回授業から早々遅刻しちゃうよ!? ……あぁもう、置いていける訳ないじゃん……どうしよう……ああもう、ごめん!」
次の瞬間、俺の身体が強引に起き上がらせられる。
「うぉぉ……!」
「起きてノア君! 本当時間ないから!! はいこれシャツとズボン! ジャケット! はいネクタイ!」
「あぁ? ……シェーラ……じゃねえ……?」
「誰と勘違いしてるの!? ルームメイトのリックだよ!?」
リック……ルームメイト……。
「あぁ……リックか……朝……?」
寝ぼけまなこで窓の方に視線を移すと、カーテンは開いており朝日が差し込んでいる。
「朝だよ! ほら見て、凄い良い天気だから! 昨日遅くに帰ってきたからだよ、こんな時間に起きちゃって……朝ご飯はさすがに食べに行けないけど、もう出ないと!」
どうやら俺はぐっすりと眠りこけていたらしい。
俺の上に無造作に置かれた制服たち。リックか……。
リック・デルソン。ルームメイトの少年。
茶髪に長い前髪。背丈は同じくらいだが、僅かに猫背なのか俺より低く感じる。
うん、徐々に目が覚めてきた。
「――悪い、寝すぎたみたいだ」
「いや、まあいいんだけど……早くしないと遅刻しちゃうよ!」
「あぁ。いや、先に行っててくれていいぞ。お前まで遅刻する必要はねえよ。わざわざ起こしてくれてありがとな」
「いやいやいや! さすがに見捨てられないよ……! 一緒に行こうよ!」
「いや、お前が居ても別に俺の仕度が早く済むわけじゃないし、そもそもクラス違うだろ……」
「見捨てたら今日一日僕が引き摺っちゃうよ……それに比べれば遅刻の方がマシだよ」
いやいや、優しすぎだろ……。優しすぎだし、その優しさあんまり意味ねえし……。ああもう俺が急いで準備して遅刻しないようにしなきゃ俺が気分悪いじゃねえか。
ある意味一番厄介だな……。俺一人ならもう遅刻するならゆっくりとのんびり準備してとなるが、さすがに起こしてくれたリックまで遅刻させる訳にはいかない。
「――はあ……わかったすぐ準備するから待ってろ」
「うん!」
◇ ◇ ◇
「はあ、はあ! 間に合いそう……!」
「そうだな」
俺たちは全速力で校舎を駆け抜け、何とか教室が並ぶ棟へとたどり着く。
「こんなに走ったの……ひさし……ぶりだよ……!」
「運動不足で戦闘なんて大丈夫か?」
「ぼ、僕は……自分で戦うタイプじゃ……ないから……!」
そう言って、リックは苦しそうに言葉を返す。
召喚とか生成系の魔術師か。術者本人が動かないとそりゃ運動不足にもなるか。
「ぼ、僕はあっちだから……!」
「ああ、悪かったな。お陰で遅刻しなそうだ。ありがとな」
「ううん、僕が勝手に遅刻させたくなかっただけだから……じゃあまた夜に!」
そう言ってリックは自分の教室の方へとかけていく。
「ふぅ……不思議な奴だなあ。魔術はどうかしらねえけど、やっぱ変わった奴が多いなこの学院は」
貴族大好きマンに、ヴァンの盲目信者。それに世話好きの同居人か。
ローウッドでは人と殆ど関わってこなかったからサンプルは少ないが……まあでも一学年90人もいればそんな奴も居るか。俺にとっては初めての集団生活だ。
俺は教室の後方のドアを開ける。
――瞬間、一斉に教室の中の全員が俺の方を振り返る。
「…………なんだよ、遅刻じゃねえだろ……?」
「…………」
どうやら丁度開始時刻になっていたようで、全員が静まり返っている中入ってきたのが俺だったようだ。
「ノア君! こっち!」
「おいノア、ここ席あるぞ!」
左の前の方で、ニーナとアーサーが手御上げて俺を呼ぶ。
俺は教室の後ろをぐるっと回り、呼ばれた方へと向かう。
「ふぅ……」
「はは、早々遅刻しそうだったなノア」
「興奮して寝れなかったの?」
「いや、逆にぐっすり眠り過ぎた。ルームメイトが起こしてくれなかったら終わってたわ」
「へえ、もうそんなに仲良くなったの?」
「いやいや、そんなじゃねえんだけどよ。すげえ世話焼きタイプっぽいわ」
するとアーサーがはあっと大きくため息をつく。
「羨ましいなあ。俺のルームメイトなんていびきがうるさい大男だぜ? 昨日帰ったらもう寝てて全然寝付けねえの。交代して欲しいぜ……」
「はは、賑やかでいいじゃねえか。ニーナのルームメイトは?」
「私ルームメイトはあそこの子だよ」
そうニーナが指さす先に居たのは、クラリスだった。
「クラリス・ラザフォードか」
「あれ、知ってるの?」
「あぁ、ちょっとな。へえ、あいつが同室か。あいつうるさくねえか?」
「ううん? 何か取っつきにくくて静かな子だけど悪い子じゃないよ」
取っつきにくい? 静か? 何か印象が違うな。
猫被ってんのかあいつ……確かにあいつの周りだけぽっかり空いてて一人で座ってるな……。
ああそうか、あいつも話聞いた感じ貴族でも名家でもないっぽいから、俺と同じ立場で浮いてるのか。
とその時、教室の前のドアが開く。
「――遅くなってごめんなさい。授業を始めわ」
◇ ◇ ◇
一クラス三十名。
今日から本格的に授業が始まっていく。
教壇に立つ黒髪の女性は俺たちを見回す。
「これからAクラスを担当するエリス・ノースバーンよ。よろしくね。担当と言っても、私が教えるんじゃなくて、それぞれあなた達が受ける授業は別に担当の魔術師の先生がいるわ。私はこういったクラス全体への説明だったり、他クラスとの調整だったりがメインね。……あぁ、あとは、何かあった時の窓口は私になるかしら。何かあったら私に報告してくれればいいかな」
そう言って、エリスは少し誇らしげに胸を張る。
「――というわけで……。じゃあ早速本題に入ろうかしら。まずは自己紹介からね」
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