銀河文芸部伝説

まきノ助

第1話 呼びましたか!?

 かつて見たことが無いほどの満天の星空が広がっていた。

 手を伸ばせば届くのではないか、と無意識に両手を上げてしまう。


 ブゥウウウウウウウウウウンッ!


 突然眩い光を発しながら、ドーム球場の屋根をひっくり返したような大きな物体が、空高くから一気に加速して目の前に現れた。


 カチカチ、カチカチ……と、しばらく音がした後で。

 赤青黄の光の三原色の電球の様な物が、彼方此方あちこちで無数に明滅している。




 その日、天河てんか高校文芸部は長野県佐久郡南牧村の飯盛山の麓に夏合宿をしに来ていた。


 男子部員2人と女子部員3人の合計5人で、これが天河高校文芸部の全部員だった。


 何故文芸部の夏合宿にこの場所を選んだかと言うと、宇宙に一番近い駅と言われる「野辺山駅」に近くて標高が高く、あたりを山に囲まれていることから市街地の人工の光が入ってこないこの辺りは、年間を通して天気が良く天体観測に適しているからだった。


 女子部員達3人は夜の草原で満点の星空を見上げて、小説に登場する星座を探している。

 小説の主人公に成り切り、星座を見上げながら妄想にふけっているのだろうか。



 一方で2人だけの男子文芸部員は、両手を上げて『こいこい』とジェスチャーしながら、訳の分からない事を呟いていた。


 2人の男子高校生は現在2年生で、1年生時はオカルト研究会という学校非公認の同好会に所属していたが、そのオカルト研究会の部員は2人きりだった。



  △ ◆ ☆ ● ◇ ▼



 高校2年生に進級して1ヶ月が過ぎた頃、ソウタは幼馴染で同級生のリンから相談を受けた。


「ねぇねぇ、ソウちゃん! お願いがあるの。 文芸部に入って欲しいのだけどぅ?」


「文芸部に?」



「うん、去年3年生だった先輩部員が卒業した後は、今の2年生が2人だけになったんだけど、今年の1年生が1人しか入って来なかったの」


「ふんふん」



「部員が4人以上いないと、部活動として認めて貰えなくて廃部に成ってしまう、と顧問の先生から言われてしまって。でも、もう入部予定者が1人もいないから、ソウちゃんに入って貰いたいのぅ」


「そうなんだぁ」



「オカルト好きのソウちゃんだから、文芸部に入ってオカルトの本を本棚に置いて貰っても構わないから、お願いしたいの? お友達のユウトさんも一緒でいいから……ね?」


「部室が使えるのはありがたいなぁ。よし、オッケーゴーグルだよ!」


 と、両手を丸くして顔の前でメガネの形を作り、笑顔で了解した。





 ソウタとユウトが文芸部員に成ってから、約2ヶ月が過ぎた。


 何事も無く穏やかに部活動が続いている。

 部室で2人は借りてきた猫の様に大人しく、いつも黙々とオカルト雑誌を読んでいた。



 1学期末試験が近づいていたのだが、リンがソウタに又お願いをする。


「ねぇねぇ、ソウちゃん。夏合宿をして活動報告を学校に提出しないとならないの。どこか良い場所ないかなぁ?」


「どういう所がいいのかな? 海とか山とか湖とか洞窟とか……、目的があった方がレポートし易いよね?」



「う~ん、星空が良く見えそうな所がいいなぁ。小説に出てくるような星座を観察できる所って知ってる?」


「それなら野辺山高原がいいかもね。近くの飯盛山に家族でハイキングに行った事があるんだけど、景色のとっても良い所で、星空が凄く綺麗だったのを覚えてるんだ」



「ふ~ん、そこでお願いしてもいい? 予約とかも……」


「オッケ~ゴーグル。手配しておくね」


「わ~い、ソウちゃん大好き。チュッ、チュッ、チュッ!」


 と、リンは手を口に当てて投げキッスの真似をした。


「ハハハ……」



  △ ◆ ☆ ● ◇ ▼



 満点の星空の下、元オカルト研究会で2人だけの男子文芸部員は、相変わらず両手を上げて『こいこい』とジェスチャーしながら訳の分からない事を呟いていた。


「ベントラ、ベントラ、スペースピープル……」

「ジュン、ジュン、ジュン、ジュン、ジュン……」


 既に30分以上も、2人で知りうる限りの怪しい呪文を繰り返していたが……。




 ブゥウウウウウウウウウウンッ!


 突然、眩い光を発しながらドーム球場の屋根をひっくり返したような物体が、空高くから一気に加速して目の前に現れた。


 カチカチ、カチカチ……と、しばらく音がした後で。

 赤青黄の光の3原色の電球の様な物が彼方此方あちこちで無数に明滅している。



「まるで何か話しかけているようだ……」


 ソウタはそう呟いた。


 UFOは、真上100メートル程の高さに止まって青白く光っている。



 リンが女子部員から離れてソウタに近づいてきた。


「ねぇねぇソウちゃん。私達ってキャトルミューティレーションされちゃうの?」


 幼馴染同級生部員のリンが顔を上に向けたままで話しかけてくる。



「キャトルミューティレーションは、牛が無血切除で解体されてる状態のことを言うんだよ」


「ひっ! そうじゃないやつっ! 連れてかれるやつ?」


「連れてかれるのはいいの? UFOに拉致されるのはアブダクションって言うんだよ」


「うん、そっち!」



「何と言うかぁ、落ち着いてますなぁ」


 と、もう1人の男子部員ユウトが呟いた。




 ピッカアアアアアアアアアアンッツ!


 UFOの中心が眩しく光り、一筋の光りの線が地面を照らしたと思うと。線が帯と成り、筒と成り、急激に広がって。文芸部員5人は光の帯に囚われてしまい、UFOの中に吸い込まれていってしまった。




「ほら、やっぱりこれはアブダクションだよね。キャトルミューティレーションじゃなくて良かったね」


「うん、ソウちゃん……」



「何と言うかぁ、やはり落ち着いてますなぁ」


 と、もう1人の男子部員ユウトが、太い声で又言った。

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