06.

 彼女は、こちらが無視しているのに、延々と喋り続けた。まるでこちらの心の扉を、開けようと、するみたいに。


「今日は曇りですね。これから雨も降るらしいので、傘を持ってきました」


 彼女。顔についた草を、払うしぐさ。


「今日も、きれいな景色」


 彼女がいることを、あまりいやだと感じなくなってきた。


 慣れだろうか。


「あ」


 雨。降ってきた。傘は持ってきていない。


「お帰りに、なりますか?」


 彼女。こちらを見つめている。


 無視して、景色だけを、眺めた。ノートブックは閉じて、鞄に入れる。


「じゃあ、傘を。どうぞ」


 彼女。


 傘を差して、自分の上に、かざした。


 左手で傘を持ち、右側の僕に。


 なぜ、と訊きそうになって、口を噤んだ。左利きは左手で傘を差すのだろう。いつも左側に座る理由は、わからない。


「雨が降っても、きれいな景色ですね」


 無視して、景色だけを眺める。


「もうすぐ。私は、月に帰ります」


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