夏の残心、昇る月

春嵐

01.

 とても小さな、丘の上。


 太陽。


 少しだけ涼しい、風。


 なにも描いていない、ノートブック。


 もうずっと、こうしている。丘の上から見える、草原と、海岸。描けない。描こうとして、結局、描けずにここにいる。ただ、見ているだけ。


 もうすぐ、夏が終わる。自分は、いくつになったんだろうか。学校に行かなくなってから、年齢を把握することができなくなった。


「あっ」


 声。


 誰かが、丘を登ってくる。それに気付いたので、ノートブックを閉じて立ち上がった。


「待って。待って待って」


 誰か。ひっしに。登ってくる。女の子だろうか。


「あっ」


 転んだ。走り方が、どことなく不安定だった。


 無視して、丘を降りる。傾斜角も緩い。三十歩もしないうちに、降りていける。


「待ってよ」


 後ろから、声が聞こえる。


 どうでもいい。

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